その日の放課後、私は久しぶりに一人で図書館に行った。
ここ最近は山宮くんと約束をした日にだけ来るようになっていたから、一人なのが少し寂しい。
けれどそんなことを言っている場合ではない。
今日ここに来たのは読書のためではなく試験勉強のため。
家に帰ってもお母さんに見張られながらずっと勉強をすることになるので、図書館に行くことにしたのだ。
途中で連絡がきても面倒なので、図書館にいることだけ伝えて私はスマホの電源を切った。
図書館の中にはいつもよりも少し人が多い。
試験期間になると図書館を利用する生徒が増えてくるのは毎回のこと。
なので試験直前は混雑を避けるためにすぐに家に帰るようにしているけれど、このくらいの人の量ならまだ居心地がいい。
むしろ今日は人の気配を感じられた方が、一人の寂しさが紛れてよかった。
今日は世界史の勉強に注力すると決めていたので、早速世界史の教科書を開く。
個人的に世界史は地歴公民の中でもかなり苦手で、いつも成績を上げるのに苦労している科目。
カタカナを覚えるのが苦手でかなり勉強しないと全く頭に入らないのだ。
まず図書館で暗記系を詰め込んで、家に帰ってから流れを覚えよう。
自分の中で計画を立てていた時、誰かに話しかけられた。
だけど誰だろう、と顔をあげるまでに聞こえた声で、相手が分かってしまった。
「…なんで?」
顔をあげた先に立っていたのは、やはり山宮くんだった。
さっき柏木くんと一緒に帰るのをこの目で見ていた私は、目の前に山宮くんがいることが信じられなかった。
「いや、こっちのセリフ」
「きょ、今日、約束…」
「してない」
「だよね」
だとしたらなんで山宮くんが図書館に?と思ったけれど、普通に考えて本を読みにきたのだろう。
そしていつもの席にたまたま私がいただけだ。
けど今日は一緒に図書館に行く約束はしていなかったのだから、別の席に座ってもいいはず。
と、思っていると山宮くんはいつものソファーに腰を下ろした。
「ここ、いい?」
「も、もちろん」
「あ、ごめん勉強してるのか。…邪魔しちゃうから俺帰るわ」
「えっ?」
席を移動するのではなく帰ると言い出した山宮くんを一旦引き留めた。
分からないことがいっぱいある。けれど何から聞けばいいのかも分からない。