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「やっぱ好きだよね?山宮のこと」

山宮くんと若干気まずくなってしまった後の昼休み。
やっと話せたと言わんばかりの勢いで愛梨ちゃん達に押しかけられてしまった。
なんと答えていいのか分からない。
自分自身、山宮くんが他の人と何か違う存在だということは自覚しているけど、それが好きという気持ちなのかがはっきりしない。
とてもおこがましい話、山宮くんと付き合いたいのかと言われたらそういうわけではない。
というか、そんなことできるわけがない。
私にとって山宮くんは唯一無二で、遠い憧れの存在なのだ。
今こうして話せていること自体よく分かっていないのに、付き合うだなんて考えを出した私が馬鹿だった。
そんなことを一人頭の中で考えて、悩みこんだ。

「…好きとかじゃ、ないの」

「いやもうそんだけ考えてる時点で好きじゃん⁈」

「愛梨うるさい。まだ奏葉の話全然聞いてないのに決めつけない」

「ごめんなさい…」

「…正直、特別な存在ではあるの。でもそれは好きとかじゃなくて、憧れで。近づきたいとか…は、少し思っちゃうけど、遠くから見ていたい感じはあるというか」

口に出すと山宮くんへの気持ちが重すぎて自分で気持ち悪いなと思った。
山宮くんからしたらこんな気持ち、邪魔で気持ちの悪いものでしかない。
だからこんな気持ちを伝えるなんてあり得ないし、やはり自分の中だけでとどめておくべきだとも思う。

「これは私の意見だけど、そういう気持ちが好きって感情の人もいると思うよ」

「え?」

「確かに~。私も彼氏のこと大好きだけど最初はバイト先の遠い憧れの先輩だったし」

凪咲ちゃん、彼氏いたんだ…という初歩的なところで最初は驚いてしまった。
でも確かに凪咲ちゃんの言う通り、そういう遠い関係から恋愛に発展することもあると思う。
けれどそれが私の山宮くんへの気持ちに繋がるのか、まだ分からない。

「まぁとにかく、どっちにしろ私達は奏葉の味方だよってこと!」

「そうそう。もしそういうので悩んでるなら話聞くから」

「私も!彼氏持ちの先輩として?」

「ありがとう。ちょっと…自分でも考えてみる」

こんな話を友達とすることになるなんて思わなかった。
前まではあの教室の隅で勉強をするだけの日々。
けれど山宮くんに出会って、世界ががらりと変わった。
色んな世界があることを知ったし、愛梨ちゃん達とも友達になれた。
けれどこんな世界を知るきかっけになったのも、山宮くんのことを追いかけていたからなのかもしれない。
かっこよくて、尊敬できて、自分の憧れで、彼の幸せを一番に願ってしまう。
まだ名前の分からないこんな気持ちは、君にだけだ。