今日の山宮くんはいつも下ろしている前髪をセンター分けにしていてとてもかっこいい。
その新鮮な山宮くんをずっと見つめていたい気持ちと、慣れないことをしている自分のことを見てほしくない気持ちが交差する。
目が合ってからどのくらい経ったのだろうか。そんなことも分からくなった私はついに目を逸らしてしまった。
逸らした後、すぐに後悔した。
けれど、また山宮くんが私の瞳に入ってくれた。

「うん。可愛い」

「…え?」

「ごめん、いつもとかなり印象違ったからびっくりしちゃった。すごい似合ってる」

私の顔を少し除きこんで山宮くんははにかむように笑った。
耳が燃えるように熱い。こんなに熱いのだから、きっとみんなにも分かるくらい真っ赤になっているのだろう。
でもあんな顔で可愛いなんで言われて、動揺しないのは無理がある。
熱い頬や耳をぺたぺたと手で触っていると、山宮くんの横顔が目に入る。
瞬間、四月の最初に山宮くんと話した時のことを思い出す。
あの時から山宮くんは他の男の子とは何か違った。
キラキラしていて、し過ぎていて、だからどこか掴めなくて、ずっと目で追ってしまう。
けれどこの特別な感情に目を向けたら、自分の何かが変わってしまいそうで怖い。
だからあまり考えないようにしてしまう。

「ちょっと山宮、うちの奏葉ちゃん誑かさないでくれるー?」

「いやそんなことしてないでしょ!全部本心だし」

「うわ、睦月が白石ちゃんに媚び売ってる。ごめんね?」

「いや、そんな」

「てか俺のこと分かる?同じクラスの柏木裕也」

「も、もちろん」

今話しかけてきた柏木くんのこともよく知っている。
いつかクラスの子が話していた時に聞いたことのある話だと、二人は去年から同じクラスでその頃からクラスの人気者だったそう。
柏木くんはサッカー部のエースで、女の子達によく騒がれているのを今年になってから知った。

「なんだ、お前らやっと白石ちゃんと仲良くなったのな」

「やっと…?」

「あ、白石ちゃんは知らないか。こいつらさ、ずっと白石ちゃんのこと可愛いって言っ…」

「そのくだりもう終わったから柏木黙って」

「何だよ!」

ただの憧れとして見つめていた人たちと今一緒に会話をしている。
図書館での山宮くんのことといい愛梨ちゃん達のことといい、まだ全く頭が追い付かない。
けれど、楽しい。
こんな世界があるのなら、早く自分の殻なんて破ってしまえばよかった。