私が勉強している間、横で見張るように座っているお母さんは何をするでもなくただそこにいるだけだ。
スマホを見ている時もあれば、私の部屋にある小説を読んでよく分からない、と呟いていたり。
正直自分一人で勉強している時の方が何倍も集中できるのだが、元はと言えば私の成績が下がったことが元凶だ。
それが分かっているからこそ、お母さんには何も言い返せない。

「じゃあ私夜ご飯の準備してくるから」

「分かった」

勉強を開始して二時間ほど経った時、夜ご飯の準備をするためにお母さんが部屋を後にした。
ドアの閉まる音と階段を下りた音が聞こえて、やっと肩の力が抜ける。
この二時間ずっと酸素の薄い場所にいたかのようだった。
息抜きをしようと一旦参考書を閉じ、スマホを取り出す。
電源を入れると、山宮くんがらメッセージの通知がきていた。
連絡先は交換したものの山宮くんとこうして連絡を取るのは初めてで、少しだけ頬が緩む。

『さっきは無理矢理引き留めてごめんね。ちゃんと家帰れた?』

メッセージでも変わらない優しい口調に心が和む。
一時間ほど前にきていたので、私はすぐに返信をした。

『こちらこそさっきはごめんなさい。家帰れてます』

数分考えたけれど、これ以上の返事は思いつかなかった。
そして送ってすぐに既読がついた。
そのまま画面を開いて待っているのも何だか気が引けて、無意味にスマホの電源を落とす。
手元にあるとどうしても気になってしまうので横にあるベッドにスマホを投げて普段しない机の上の片づけなんかもした。
約一分後、ベッドの上のスマホのロック画面が光ったのが目の端に見えた。
私は急いでスマホを手に取って、山宮くんからのメッセージを確認する。

『よかった!』

少し待ったけれど、それから新たに山宮くんからメッセージがくることはなかった。
自分がどんな返信を期待していたのか分からないけれど、まさかの一言返事に少しがっかりしている自分がいる。
けれどさっきの私のメッセージによかった以外どう返せばいいというのか。
そわそわして返信を待っていた自分が突然滑稽に見えて、慌てて机に戻った。
顔が熱い。部屋には誰にもいないのに誰かに馬鹿にされたような時みたいな恥ずかしさに襲われた。
山宮くんのことになると、自分の中の自分がもっと分からない。