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一日の最後の授業が終わって、みんなが一斉に立ち上がる。
学校という一つの場所に縛られていた時間が終わり、各々が自由に動き出す。

「奏葉!一緒に帰れる?」

「えっと…」

「あ、もしかして予定ある?それなら明日にしよう!」

「…ごめんね」

「全然!」

今朝正式に友達になったばかりの愛梨ちゃんは、いい意味で友達になっても何も変わらなかった。
私が何かを断っても一つも嫌な顔をしないし、そしてまた私に話しかけてくれる。
人数が多いところにはまだ抵抗がある、と伝えると他の友達を一緒に混ぜて無理矢理私と仲良くさせることもしなかった。
そんな愛梨ちゃんに今日だけで何度も救われた。
けれど今日は山宮くんとの約束がある。
斜め前、愛梨ちゃんの隣に座る山宮くんにも先ほどの会話は聞かれていただろう。
それを思うと何だか恥ずかしいような、何とも言えない気持ちに襲われた。
少し山宮くんを見ていると、彼がカバンを取る動作と同時に目が合う。
私にだけにしか分からないよう小さく微笑んで、また友達との会話に戻っていった。
ぎゅっと胸が苦しくなった。ずるい。きっと相手は特別なことなんて何も考えていないのだろう。

「あ、じゃあこの後予定あるから行くわ!」

「おー、また明日なー」

山宮くんが教室を出て行ったのを見て、少し時間を空けてから私も図書館に向かった。
一緒にいるところを見られたら駄目なんてことは決めていないけど、何となく山宮くんの横で自分が歩くのは気が引ける。
それなのに、あっという間に彼の背中が見えてしまった。
図書館までの道が普段の倍以上に感じる。
どのみち話すのだから、もう人気もないし話しかけてもいいのだろうか。
けれどそれにもかなり勇気がいるし追い越すのも違う気がする、なんて考えていると形のいい頭がくるりと振り向いたのが見えた。

「ねぇ、いつまでそうしてるの?」

「き、気づいてたの⁈言ってよ」

「はは、ごめん。なんか面白くて」

なぜかくすくすと笑いを堪えている山宮くんを横目に、そっと私は横に並ぶ。
この間は座っていて気が付かなかったけど、山宮くんはかなり身長が高い。
横に並ぶと自分は彼の肩くらいまでしか届かなくて、何だかドキッとした。
少し歩くともうすぐ目の前には図書館の入り口が近づいている。
山宮くんに開けてもらい二人で図書館の中に入ると、今日も図書館の中は本の匂いがした。

「白石さんはいつもあの席に座ってたの?」

「うん。あそこ角だしなんか落ち着くんだよね」

「それ分かる」

この前と同じ席に座ろうとしたら、山宮くんが前に座っていた席を譲ってくれた。

「ありがとう」

「元はと言えば俺が白石さんの定位置に勝手に座ってたんだから」

そう言って二つ隣のソファーに腰を掛ける。
そんな些細な動作でも様になってしまう彼に怖さすら覚える。
今自分はそんな人と二人きりで一緒にいる。

「あ…これ、先週言ってた本」

「うわ!ありがとう、まじで楽しみにしてた!」

まるでおもちゃを与えられた子供のような笑顔で、私まで嬉しくなる。
家から持ってきた数冊の本を渡すと、反対に山宮くんも私に本を貸してくれた。

「これで貸し合いっこ」

「だね」