――――輿入れに、日数がかかることは仕方がない。前世のように飛行機や寝台列車があるわけじゃないので。

だけど……それでも宿くらいはあるはずだ。それなのに……野宿。

「さぁ~て、楽しい楽しい野宿だよ~~!」
何故かテンションマックスな地角《ディージャオ》に殺意を覚える。……だが。

「嫁と、野宿っ!スイと、野宿っ!」
このフルフェイス仮面が本気でウキウキしてるんだからなぁ~~、もう~~っ!!
これでは地角への殺意も隠さざるをえないわね。

「じゃぁ肉焼こうか」
火おこしを済ませ、地角が串を網の上で焼いていく。てか……キャンプセットまで用意してるなんて……こやつら確実にキャンプ楽しむつもりだったわよね……!?

因みに新鮮なお肉は、先ほど地角が妖獣をサクッと狩ってきたものだ。
この世界にも、西洋ファンタジーの魔物のような存在がいる。
それらは獣の一種であり、妖魔族ならば飼い慣らすことも可能だが、こうして狩りをして食材とすることもある。
ただし普通の獣と違うのは、妖獣は奇奇怪怪、妖術やら、ものによっては仙術なるものさえも操ると言う。それらは人間にとってはとりわけ脅威となる。だからこそ、人間は妖獣と渡り合う実力を持つ妖魔族とは、できるだけ仲良くしたいのである。

「さぁて……ちょっとクセが強いからなぁ、スイちゃんは食べられるかなぁ~?」
ディ……地角めえええぇっ!?やっぱりコイツからは、悪意を感じるわね!?小姑かぁっ!おめぇわ!それを言うなら小舅かもだが、この男は確実に小姑タイプである。しかも、何かちゃん付けなんですけど!やっぱちょっとチャラくない!?この男!

「……はっ、スイは……食べ、られない……?」
そして肉が焼けるのを今か今かと待っていた飛雲《フェイユン》ががっくりと項垂れる。きゃーっ!?しゅーんとしちゃったじゃないの!しょんぼりにゃんこみたいになってるじゃないの!

「ご……ゴメンって……まさかそんなにしょんぼりするとは……ほら、もしかしたらスイちゃんが、野獣のような公主ちゃんで、妖獣肉ももぐもぐ食べる野獣かもしれないじゃん!?」
オイコラ、何回野獣連呼するんだコイツはぁっ!!ひとを野獣にしたいのか!まさに主君のためなら主君の嫁を野獣にしても構わないと……!?見上げた主従愛をありがとう!?

「そうか……スイが……野獣っ!」
飛雲がお面の下からキラキラとした視線を送ってくる。
とんでも小姑のせいで、飛雲が妙なトキメキを覚えちゃったじゃないの!?

私……こんな嫁いびりには負けませんけど!?こちとら女子よ!女子の矜持があるのよ!

焼き上がった串を手に持ち……そして。

「この肉汁沸き立つ焼き上がり、素晴らしいわね!」
さながら食リポのごとく。

「早速……いただきまーす……!」
はむりと、串焼きにかぶりつく。でもひとくちでは行かないのがポイント。少しずつ食べながらリポートするのも大切。

「んんっ、肉汁たっぷり!美味し~いっ!」
完璧にやってやった。意地悪小姑の前で、完璧な食リポをくれてやった。女子のカワイイを込めた食リポよ!?野獣だなんて、呼ばせないわ!!

「月絲怡《ユエスーイー》」
串焼きをひとつつまみ上げ、地角が立ち上がる。そして、ゆっくりと私の前に立つ。な、何よ……っ!まだ文句があるの!?小姑め!

「俺は君を見くびっていたようだ。それをここに、謝罪しよう」
そう言って、肉串をこちらに向けてくる。

「分かってくれて、何よりだわ」
私も何かノリで、持っていた肉串を地角の肉串とクロスさせる。

「……っ、スイ、私もだ……!」
飛雲も肉串を持ち、私たちと肉串を合わせる。

肉串で……乾杯……!

いや、何やってるのかしら、私たち。

「帰ったら皇后は食リポ可って、宰相に伝えないと」
どうやら妖魔帝国では、皇后の公務に食リポが加えられるらしい。

「あ……ところで範葉とマオピーも食べなさいな、ほら」
たくさん焼けたわよ。

お皿には焼き上がった肉串が積み上がっている。地角なんてお構いなしに小姑いびりしてくるんだから。むしろ幼馴染みの容量でも構わないんだから。

しかし……。

「範葉ったら、何でマオピーとイチャイチャしてるの……?」
範葉の後ろから、マオピーがぎゅっと抱き付いていたのだ。

「いちゃ……っ、違います!その……何故か、後ろからくっついてきて……っ」
「……やっぱりイチャイチャじゃないの」
桃《タオ》叔父さまもよく義息子にくっついてたわね~~。何だか懐かしくなってきた。いや……桃叔父さまが範葉にくっつくのは、決まっておイタをしてお父さまに怒られた時だが。

「ですから……っ」
そして必死なところが怪しい。確実に範葉だって、マオピーのふかふか毛皮のもふもふを背中越しに楽しんでいるはずだわ!?

「マオピーは火が苦手なのだ」
そこで、飛雲が立ち上がる。火が苦手……て、は……っ。毛皮に燃え移っちゃうからぁぁっ!それは、大変だわ!

「ほら、マオピー」
そしてマオピーに肉串を自らあげに行く飛雲。

「……主君……っ」
そして主君から肉串を貰ったマオピー、めちゃくちゃ嬉しそう。
何かしら、あのもこもこと天然のぽわぽわ幸せ空間は。

「とにかく、範葉も、ほら」
範葉に肉串を差し出せば。

「……ありがたく、いただきます」
「うんっ!」
素直に食べてくれたので、よしとしよう。

あれ、ところで飛雲はフルフェイスお面なのに、どうやって食べるんだろう。じっと見ていれば、器用にフルフェイスお面の中に肉串を差し込み、食べている。

それをまじまじと眺めていれば、お面の向こうの赤い瞳と目が合う。

「スイ、食べぬのか……?」
は……っ。そうよね。

「旨いか」
「……うん、もちろんよ」
何だか、飛雲に見守られながら食べるの、照れるわね。だって何だか……お面の下で、とっても愛おしそうに見つめられているような気がするのだもの……。