――――ちくちくと、ぬいを仕上げつつも、すぐ側で行われる会議を横目で観察する。
「だが、私ぬいは私の化身なのだ!」
飛が叫ぶ。
「成りません!金は皇帝の色!ぬいは……ぬいでしょう!」
こちらも譲らぬ蔡宰相。
「スイが私と別々で寂しい時、少しでも私を感じたい……そう思うはずだ!」
そりゃぁ、心細いこともあるでしょうよ。
でも……ぬいは金色の衣じゃなくてもいいのでは。
「ですが……皇帝陛下は唯一無二!たとえぬいであろうと金色の衣はなりません!!」
「ふぐぅっ!!」
蔡宰相の叱咤に、押し負けそうな飛。ここは……頑張ってとはなかなか言えまい。
「あ、私の方はできたわ。ほら、桃叔父さま」
今日は月亮から桃叔父さまが遊びに来ていた。一応書状も持ってきてくれて、月亮から妖魔帝国への季節の挨拶も受け取ったのだが。
「おお、俺のぬいー!」
何となく、桃叔父さまぬいを作り初めてしまった。うーん……前世の血が騒いだのよね。何かしら……桃叔父さまのマスコット性。ぬいフォルムが瞬く間にできてしまった。さすがにお父さまのは……本人の許可が必要でしょうけど。それから、布面をつけたとはいえ、その下の素顔は……。一応取れないようにした。国家機密だものね。
しかしぬいを受け取った桃叔父さま。それを一体どうするのかしら。お父さまに渡すとか……?受け取るかしら、最近称号が増えた破壊拷問打屁股魔王お父さま。
「葉~~」
しかし桃叔父さまが向かったのは範葉の元である。そして範葉の胸元にぬいを……すちゃっと入れた~~!
「と、父さん!?何ですか、いきなり……!」
「葉が寂しくないようにな……!」
お、叔父さまったら……!
「私は別に……むしろ父さんは……」
「俺なら大丈夫だぞ!維が肘掛けにしてくれるからな!」
肘掛け生活をエンジョイしている桃叔父さま。相変わらずね。まぁ、暫くすると暴れたくなって泣き言を言い始めるのだが、その風景は月亮城の風物詩である。
「なら……その、いいですよ、受け取ってあげます」
そう告げる範葉の頬は、何だか赤らんでいた。本当は嬉しいのよね……?かわいいなぁ。
「大切にします」
「おう!」
何だかかわいい風景である。
一方で……。
「スイ……今度のぬいコスは、ペアルックになったのだ。そうなるとスイは金色を着られないから、2人におめでたい赤を着せようか!」
飛が嬉しそうに飛んでくる。
「はぁ……はぁ……」
蔡宰相はちょっとバテていたけどね。
しかし……ペアルックを出せたところはさすがというか、なんと言うか。敏腕宰相に感謝である。
なお、飛や私が連れ歩いていることで、かねてより話題となっていたぬい。ペアルックを発表したことで、妖魔帝国ではさらにぬい人気が加速し、それが月亮にも広まったのはまた別の話である。