――――冬の祭典が終わり、帝国城にて。
「そう言えば駱叔父さまは、こちらにどんな用事だったの?」
お父さまからは、詳しくは聞いていなかったのだ。
「実は、届け物をと」
駱叔父さまが取り出したのは、帯紐……いや、それにしては細いし……最近これに似たものを見たような……。
そうだ……!
「目隠し……?」
「そうですよ。陛下の手元には、これだけまだ残っていましたから」
「でも、それは混沌のためのものじゃなかったかしら」
月亮皇が管理する4つの魔具の中で残る宝貝は、それだけだ。
「そうですよ。いつになっても来ないからと、送り付けて来たんですよ、あの大哥は」
駱叔父さまがはははと笑う。
「でも、どうして駱叔父さまなの……?」
「それが一番手っ取り早いだろうと」
それはどういう……そう思って入れば、部屋の扉の向こうから、あの時の目隠しの男の子がこちらを覗いていた。そしてその後ろからは、蒼爺が眠たげにしながら歩いてくる。
「彼を知っているのかい?」
蒼爺が男の子にそう問い掛ける。
「知ってる。でもぼくじゃない」
「そうですね。私が知っているのは先代です」
つまりは……先代の混沌。
「私の……実の父親ですか」
範葉が呟く。
「えぇ。だからこそ、代変わりしたのなら、まるで甥っ子のように思えてしまうのです。私は間に合わなかったので」
そう語る駱叔父さまは、少し寂しそうだ。
「妖魔帝国も変わった。あなたたちを無理に縛ることはない。来ようと思えばいつだって月亮に来られる」
「……でも……あの月亮皇は……先代のものだ。与えられた名も、先代のものだ。ぼくのものじゃない」
当代の混沌が、生まれ変わっても月亮に来なかったのは……それが理由だったのね。
「ですが陛下がこれを私に託したのなら、来てもいい、と言うことです」
「でも……桃が許さない。桃は先代を大切に思ったが、だが今さら月亮皇を取られれば、嫉妬するだろう」
「ご存知ですか?桃が陛下に拾われたのは、陛下が皇太子だった時ですよ」
「……それは」
「あなたが選ぶのならば、それでいいのです。地角と同じように、選べばいい」
先代の混沌は……恐らくお父さまを選び、そして範葉のお母さまと生きることを選んだのだ。
だから当代も、選べとお父さまは言っている。
そしてその資格を駱叔父さまに持たせた。その言葉をかけるのは、駱叔父さまがいいと思ったのね。
陸叔父さまだとぶっきらぼうだし、子どもには強面すぎるかもしれない。お父さまが自分が行けば……桃叔父さまが嫉妬するわね。
それなら……先代の混沌と、どうやら親しかったらしい駱叔父しまが適任だった。
「そうですねぇ……私も冬は眠くて仕方がない。ですが、子どもはやはり、遊びたいでしょう?月亮は雪合戦やら雪だるまやら、楽しいことがたくさんあるらしいぞ」
蒼爺ったら、いつの間に……?まさかとは思うが、有名じゃないわよね……?飛は知らなかったみたいだし。
「行っても……いいのか?」
「ご一緒しましょう」
駱叔父さまが手を差し伸べれば、混沌は嬉しそうにその手を取った。
そして月亮の宝具を身に付け、駱叔父さまと月亮へと旅立った混沌が、無事に駱叔父さまと月亮にたどり着いたこと、城の庭で桃叔父さまと元気に雪だるまを作ったこと。
そんな日常の嬉しい便りが、異母弟から届いた。
「何だかこれで、一件落着って感じね」
「うむ。みな、会いたいものに出会えたのだな」
「えぇ」
飛と共に、飲茶を楽しみつつも、異母弟からの手紙を読み返す。
「私も、会いたかったスイに、また出会えたのだ」
「……それは……そうね。でも……私も、また会えればいいなと思っていたのよ」
「……スイも……?」
「だって、せっかく出会えたんだもの。友だちになりたいって、思うじゃない?」
「その……友だちに……」
飛が何故か肩を落とす。
「でも今は夫婦になれて、幸せよ」
「スイ……!」
ぱあぁっと顔を輝かせる飛が、やはりかわいらしい。のほほんと構えていれば、不意に唇を塞がれる。
「ちょ……っ、飛!?」
「ふふ、油断したな?」
「も……もうっ」
いつの間にそんな、不意打ちなんて覚えたんだか!ただの天然と侮るべからず……じゃない。でも、そんな日常も堪らなく愛しいのだ。