――――久々のマイホーム、落ち着くわぁ……。

「見てごらん、スイぬい、私ぬい。ここが私の愛しのスイの実家の月亮城からの景色なのだ。秋は妖魔帝国よりは肌寒いが、しかし一足早い秋の味覚は格別だぞ」
そこのバルコニーから、ぬいに祖国の風景を見せてる飛《フェイ》に一番和むのだけどねぇ。

「スイ……!スイも来るか」
飛がウキウキしながら私を呼ぶ。

「そうね」
飛からもらったもこもこ上着を羽織り、私もバルコニーからの景色を一望する。

「懐かしいわ」
城から見る、月亮の景色。

「月亮は豊かな土地だ」
「そうね。みんなが努力してきた結果だわ」
そうやって、何十、何百年もかけて、土壌を改良して大きくしていったのよ。

「だがきっと、 代々の月亮皇の治世のお陰でもある」
まぁ、先代は後宮を大きくしちゃったけれど、その影で月亮の宵宰相のお父君たち臣下が支えてくれたのよ。それから、お父さまも皇子として……。

「私も維竜皇のような皇帝でありたい」
「そうね。あなたならなれるわ」

「うむ……!スイが隣にいてくれるのなら、私は頑張れるのだ」
本当に嬉しそうなんだから。

飛の笑顔を見つつ、和んでいれば。城の侍女が呼びに来る。

「スイさま、実は折り入ってお話が」
「……何かあったの……?」

「多分止めた方が……いいのではないでしょうか」
戸惑い気味の侍女の影から、こちらについてきてくれた胡艶が申し訳なさそうにしている。

うーん……私にそれが来ると言うことは……決まっている。

「スイ……どうしたのだろうか」
「大丈夫よ、いつものことだから」
侍女に案内されて、飛と共に移動すれば、そこには範葉とマオピーも待っていてくれた。うん……?

「地角はどこにいったの……?」
「うむ……あそこ」
マオピーが示した先には……。

「か……勘弁してください」
「だってぇ~~っ、維~~っ!」
「何で私まで巻き添えなのよぉっ!」
3兄姐弟が見事に正座させられていた。

「ちょっと、何があったのよ。珊姐《シャンねぇ》もどうしたの?」
珊姐の元に駆け寄る。
「地角が何か粗相をしたのなら、私が……っ」
続いて飛も。

「スイちゃんっ」
そして珊姐が私に飛び付く。
さらに飛も地角のために、間に入る。

「ほぅ……?妖魔帝飛雲よ」
「は……はい……っ」
お父さまの言葉に、飛が自然と背筋を伸ばす。

「臣下を庇う心意気は立派だが、しかし臣下が粗相をしたのなら、叱るのも主の務めではないのか」
「……それは……その通りです。地角が、何をしたのですか」
飛がぐっと唾を呑み込む。

「いいか!こやつらは……俺が大事に取っておいた限定ものの月餅を盗み食いしやがった……!!!」

「え……?」
飛が目を点にする。あぁー……今日はそれ系か。本当にいつもいつも下らない。いや、桃叔父さまの悪戯が下らなさすぎるのだが、

「だって……維が月餅のことばっかり考えてんだもん……!俺が肘掛けやってるのに不公平だ――――っ!!月餅ずるい月餅ずるい月餅ずるい!維は俺と月餅のどっちが大事なの――――っ!!!」

「父さん……ついに月餅にまで嫉妬とか……」
範葉が深く溜め息を吐く。そうね、ここで月餅って答えたら、修羅場に入るわよ。

「だからってその月餅をお兄ちゃんたちにも食わせるとか、お前ねぇ、お兄ちゃんたちを殺す気か!」
「そうよ!普通に美味しいって思って食べちゃったじゃない!それにね、この冷血破壊魔王は、殺さずに永遠の拷問を与えようとする冷血破壊拷問魔王よ!」
お父さまの愛称……前よりも何だか増えたわね。

「うぐぐ……せっかく久々に帰ってきたスイに食わせてやろうと思ったのに……!」
月亮の食べ物の恨みは100までとは言うが……。
「お父さま……」
私のことを考えてくれるのは嬉しいけど……これ以上その愛称にオプションつけないで欲しいのだが。

「また買ってくればいいわよ」
「だが……1日に作る量が決まってるやつだから、もう今日は手に入らん。予約は今後も埋まっているし……」

「また次の機会があるでしょう?」
それでも無理に作らせようとはしないのは、お父さまよね。

「それに……そうだ、私が作るって言うのはどう?」
「す……スイが……っ!?」
お父さまが驚く。まぁ、公主としてあまり料理はしたことがない……むしろ、する立場でもないからなぁ。でもこう見えて、妖魔帝国では食リポの一環で点心教室なんかも体験したのよ?それに、前世の料理の知識もあるのだし。

「厨房は借りられるかしら」
「もちろんだ。厨師《りょうり》長の言うことなんてどうだっていい……!好きに作れ」
「いや……厨師長の言うことは……聞きましょうか?」
しかし私の思い付きもあってか、正座させられていた3人も無事に解放されたのだった。

そうしてみんなのために作ったのは……。

「無事にできたわよ!」

「これは美味しそうですね。妖魔帝国で習われたので?」
厨房で監修をしてくれた厨師長が微笑ましく見てくれる。

「いや……その、基礎はね……!これは美味しくなると思って取り入れてみたの……!」
本当は前世の知識だけど……さすがにそうは言えない。

「さすがです、スイさま。きっと陛下も喜ばれましょう。この拔絲地瓜」
「……?あ、ありがとう!」
何かさっき全然知らない料理の名前が出てきた気がするのだけど……!?これ……大学芋よね……?
料理の概要を説明したら、厨師長が妙に理解してくれたのってその料理のお陰かしら……!?

まぁ、気を取り直して……みんなにお披露目の時である。

「じゃぁ、まずはお父さま。是非最初に食べて」
そう言って大学芋を差し出せば。

「スイの手料理か……なかなかいいものだな」
そう言って、お父さまが大学芋を口にすれば。

「ん……旨いな」
そう笑んでくれる。
お父さまが機嫌を直してくれたところで、範葉や桃叔父さまたちにも振る舞う。

「ほら、地角も」
何だか遠慮しているようだが。

「うーん……ま、スイちゃんのお手製だから、遠慮なく」
そう言って、口にいれてくれた。

さらに胡艶や侍女たちにも後で食べてねとお裾分けをし……。
私は飛と共に大学芋を味わう。

「うむ……旨いな」
「でしょう?」

「だが本当は、私が一番に食べたかったのだ」
妖魔帝国では一番にご馳走したのに……もう、飛ったら。

「我慢できて偉いわ」
お父さまの機嫌のために……それから地角のためにも我慢できたのね。

「スイに褒めてもらえるのなら……私はちゃんと待てができるのだ……!」
そう言って満足げに大学芋をもひもひしていた。
その様子を見ていたら、何だか微笑ましくなるし……そうだ……こうしてみんなでテーブルを囲うのは……飛の好きな風景だったわね。

私は久々の故郷で、懐かしい家族や仲間たちと、目一杯リフレッシュしたのだった。