弥花含め、陽亮の使者は去った。一方で。
――――そう言えば、大災害は沈静化し、もう先代王太子は身罷られたのなら。

「もう次の混沌が産まれているの……?」
飛雲を見やる。
「そうだな。混沌はもう生まれている。彼がどこに行こうとするかは……まだ分からないが」

「そうなの……でも迷ったら、月亮に来るといいわ。お父さまは桃叔父さまを肘掛けにしてるけど、いいこにしてれば、肘掛けにはされないわ」
「そうだな。しかし……肘掛けか」
クツクツと飛雲が笑う。

「こら、飛雲ったら」
たしなめれば、何だか嬉しそうな顔。その顔知ってるわ。お父さまと桃叔父さまで散々見たもの。あなた、割りと悪戯っ子ね……?

一方で。

「あぁ、久々に暴れたかったのに。なぁ、維~~」
お父さまに泣き付く桃叔父さま。
「無茶を言うな。お前の相手など疲れる。俺は毎日執務で忙しいんだ」
お父さまもバッサリ切り捨てるが、でも桃叔父さまはそれでもお父さまのそばを離れないんだから、相当懐いてるわよね。

「むぅ……」
「あと勝手に暴れたら肘掛けな」
「あれは本当に嫌だぁ~~っ」
そのやり取りも何だか懐かしいわね。そう思っていれば。

「フフフッ。相変わらずねぇ~~、アンタは」
現れたのは珊翅だった。虎耳しっぽと、背中から生えた翼の美しい女性である。

「そうだ、珊《シャン》姐。陽亮の予言書について、何か知らないかしら」
「陽亮の予言書……?」

「その……陽亮の公主・弥花が女主人公《ヒロイン》で、四神を従える主となるんですって」

「あぁ、それ……何代か前の窮奇が面白がって残した、別の世界の記憶よ。どこから手に入れたのだっけ……もう忘れたけど、面白そうだからって、陽亮の中枢に潜り込ませたのね」
もしかしたら、私の他にも転生者がいたってこと……?そして珊姐の以前の代の時に、どうしてか出会って、その記憶を授けた。
それはもともと地球にあった話なのだろうか。しかし内容的に言えば現代的である。だとしたら、転生したとしてもその時系列はこちらの世界とはあっていないのかしら。
まぁ、そこら辺の事情は神しか分からないだろうが。

少なくとも、弥花はそれに踊らされたってことね。そしてお花畑すぎる彼女は多分、転生者ではないのだろう。
別世界で産み出された夢物語に傾倒してしまった。彼女にとっては、別世界の夢物語はよほど輝かしく映ったのかしらね。それが予言書だなどと思うだなんて。そう言うのはね、フィクションなのよ。予言書には『この物語はフィクションです。実在の団体、人物、異世界とは何の関係もありません』と載っていなかったのかしら。
だがしかし、その夢物語を陽亮に置いたのは、何故……?潜り込ませたのは、どうして……?
まさかとは思うが、窮奇は窮奇で、こうして陽亮が瓦解していくさまを楽しみたかったとか……?

「諸悪の根源はお前かっ!」
そしてさすがと桃叔父さまも気が付いたのか、怒る。

「でも、それが私たちよ?」
凶星は、そう言う存在だと言われる。しかしそれをぶん殴って泣かせて尻をぶっ叩いたのが初代月亮公なので、本当に極悪なのはどちらか分からない。

「けど、珊姐は今はちゃんといいこにしてるじゃない」

「そ……そうよ!えへっ!お姐さんはいつでもいいお姐さんなの!」
うんうん、そうよね……!

「お前ほんとに何キャラだよ」
「初めて見たけど……お前……」
あれ……桃叔父さまだけじゃなくて、地角まで何故かドン引きしてるのは気のせい……?

「あ、そう言えば地角、アンタ、青龍食べちゃったって」
思い出した!さっきすごいこと言ってたわよね!いくら饕餮だからって……。

「あぁ、あれ?ウソ、ウソ!」
ギャハハハッと笑う地角。ちょぉっ!?どゆこと!?

「あれは……青龍からの受け売りだよ」
「はぁ!?青龍って今はいないんじゃ……」

「いるさ。陽亮にいないから、陽亮は青龍かまこの地上にいることを知らない。だが青龍はいる。ただ単に隠居してるだけだよ。もしも陽亮のやつらが青龍を訪ねてくれば、そう言ってやってくれって、本人から」
「はぃ――――っ!?」

「俺が言うんだから、信憑性抜群だろう?」
そりゃぁ、何でも食べちゃう饕餮だもの。