妖魔帝国に輿入れするにあたり、妖魔帝国側が輿入れ用の馬車を用意してくれることとなり、私は迎えと共に嫁ぐこととなった。

「スイさま。私がお供いたします」
「ありがとう、範葉《ファンイェ》」
本当は祖国から誰か侍女が着いてくる……と言うこともあるのだろうが、やはりみな、妖魔帝国と言うまだまだ未知の領域には尻込みしている様子。

昔よりは交流が活発になっているとはいえ、それは国境付近の住民や合同訓練で一緒に触れ合う武官たちくらいだろう。

だから侍女はあちらで紹介してもらうことにして……うちの国からは、武官の範葉と共に赴くこととなった。

「でも範葉は良かったの……?私と妖魔帝国に……」
「問題ありません。父さんからも許可は得ております」
範葉のお父さまとは、桃《タオ》叔父さまのことだ。叔父さまは妖魔族だけれど、範葉にその特徴はない。範葉は養子なのよね。むしろ範葉を育てるために、桃叔父さまは月亮に住んでいたのかしら。
まぁ、範葉が成人しても相変わらずこちらにいるから、単に気に入っているのかもしれないが。

「でも……範葉がいなくなったら、桃叔父さまは生きて行けるのかしら」
武芸の技は一流以上に破壊級だが、生活能力がまるでないんだから。むしろ範葉が身の回りのことをいろいろとしてきたのだ。
ほんと……そのお陰で範葉は子供のころからしっかりものだった。桃叔父さまの養子になって出会った当初は引っ込み思案であまり話さない子だったけど、桃叔父さまがあぁだから、自然と世話焼きになってしまった。

「そうですね……維竜陛下には懐いておりますから、言うことは聞くでしょうし」
まぁ、お父さまの言うことはね。

「宵《シャオ》宰相や陸《ルー》叔父もおりますから、後は任せることにしました」
月亮の宰相・宵天、そして鄭叔父さまとは別のお父さまの異母弟・陸碧燕《ルービーイェン》叔父さまだ。

「でもそれはいつものことなのでは……」
桃叔父さまに宵宰相が小言を言い、妖獣討伐や武官の演習では陸叔父さまが桃叔父さまが小言を言う。

「えぇ、ですから平気ですよ。父さんもそろそろ父として一人立ちしてもらわなくては」
普通は息子が一人立ちするものよね……?
でもこの父子は、確実に親子逆転してるんだもの。

「あと、駱《ルォ》叔父も……」
そう、範葉が名を出せば、後ろで何かがガサリと落ちた気がするのだが。ひょっとして……駱崗叔父さまかしら……?
職務上滅多に表に顔は出さないのだが……桃叔父さまのお守りがそんなに衝撃だったのかしら……?

「まぁ、そう言うことなら私も安心だわ。私としても、範葉が付いてきてくれるのは頼もしいし」
幼馴染みと言うか……血の繋がらない従兄妹みたいな関係だもの。
むしろお父さまと叔父さまたちの中では甥っ子同然だものね。

「それにしてもあのクズと女……」
しかし次の瞬間……範葉の視線がぐっと鋭くなる。敢えて名前は出さないけど、でも誰のことだかはすぐ分かる。因みに叔父たちには可愛がられていた範葉だが、鄭逸とは犬猿の仲と言うか、何と言うか。
鄭叔父さまもたしなめてはいたが、鄭逸はよく範葉をどこの馬の骨だの何だの言ってたもの。
一度それを聞いた桃叔父さまがキレたのをギリギリまで止めなかったことが功を奏して、桃叔父さまの前では言わなくなったが。

「いいのよ。むしろあんなやつと縁が切れて願ったりかなったりよ」
「スイさまが吹っ切れたようなら、何よりです」
範葉と頷きあい、私は次にお父さまへ出立の挨拶をする。

「お父さま、行って参ります」
「あぁ、気を付けてな」
お父さまが優しく声を掛けてくださる。何だかもう既にホームシックになりそうだわ。
でも国のために、後戻りはできない。

妖魔帝国からの遣いが待っているのだから。
お父さまと一緒に見送りに来てくれた城のみんなや、宵宰相、陸叔父さまにも挨拶をする。