世界の意思からも逃れられず、延々と、代々その役目を踏襲する彼ら。
同じ妖魔族からも、異質な存在と見なされる。しかし彼らがその役目を果たすからこそ月亮は成り立つのだから。
だから無理に追い出すこともない。そう決めたのは初代の月亮皇……月亮公と呼ばれるお方だ。

――――だからこそ桃《タオ》叔父さまは妖魔族であろうが月亮で暮らし、珊翅《シャンチー》はどれだけ世界を放浪しつつも、この月亮の皇都に帰ってくる。

……ま、その本能のままに悪事を働けば、代々の月亮皇に追い出されるよりも、吊し上げて尻を叩かれるか肘掛けにされるのがオチだが。そう言う故事《ものがたり》は、いつの時代も絶えないのよね。なお、肘掛けについてはお父さまの代で生まれた故事ある。

そんな彼らだが、その特殊性故に、そう簡単には寿命以外では死なない。むしろ死なせてはいけない。彼らが守るもののためにも。
だが例外はある。神に加護を与えられた四神が……現に殺してしまったのだから。
それも神の力を得たが故か。

そして殺してしまったからこそ……弥花の父親は……。

「次の混沌が生まれるまで、混沌の業を被ることとなった。あれも神の加護を持つ身。むしろそれでなくては耐えられまい。だが陽亮は、そのような大罪を犯し、国に未曾有の災害をもたらした先代王太子を神の遣いとは見なさぬよう、地に埋もれさせたのだろうな」
だから弥花にも隠した。月亮では神話に出てくる混沌を殺した者。決して認めることのできない存在だ。
だがそれでもなお、月亮は当時の月亮皇の鶴の一声で、大災害を食らった陽亮に援助をした。

「……何故」
「当時の陽亮王が、月亮皇に頭を下げ懇願したからですよ」
「宵宰相……っ!」

「さらには先代王太子を王族から除籍させた。ただ当時幼かった公主だけは、安全のためにも当代陽亮王が養女に迎え入れたそうだが」
「陸叔父さま」
2人とも、弥花に厳しい目を向ける。安全……国に未曾有の災害をもたらした先代王太子の娘……もしかしたらいわれのない被害を受けるかもしれないから。それならば、公主として守る方が妥当だと。
しかしそんな陽亮王たちの慈悲と懇願も虚しく、弥花は醜態を働いた。

「でも……どうして先代王太子の失態が、大災害に繋がったのかしら」
混沌が封じてきたものを、先代王太子が受けきれなかったから……?たとえ神の遣いであろうとも、難しいことだったからだろうか。

「混沌は闇を司ります。その混沌を殺したのですから、陽亮には陽が沈まなくなったのですよ」
前世の天文学的に言えばあり得ないことだが、しかしこの世界ではあり得ることだ。そのような、奇奇怪怪なことすらも。

そしてそれゆえに、一日中太陽に照らされた陽亮は……その国名の如く陽亮国となってしまった。気候、豊穣、繁栄、全てに恵まれたはずの神の大地。しかし神の遣いが神が定めた世界の仕組みを破壊した、その罰か。陽亮はその罰を受けることとなった。神に愛されて守られていたからこそ、その神の仕組みは決して侵してはならない。神に愛された大地は大地で熾烈な世界ね。

「陽亮のものたちを今すぐ月亮から追い出せ。この場で殺さないことを感謝しろ」
お父さまが告げれば、陸叔父さまたち武官が一斉に陽亮の使者たちを捕らえにかかる。それから……あ、珍しく駱崗叔父さままで捕縛に加わっている。

「は、離してよぉっ!私は……私はヒロインなのよ!?」
うーん……弥花はまるで転生者のようなことを言うけれど、それは全ては予言書の知識。頭お花畑なだけで、転生者ではないのだろう。

「私は陽亮の公主よ!四神を集めて、ヒロインになって見せるのだから!」

「連れていけ」
お父さまが命じれば、駱叔父さまが弥花に猿轡を付け、容赦なく拘束する。

「今すぐ嬲り殺してやりてぇ」
ボソっと桃叔父さまが呟けば、その声と殺気を感じ取った弥花が固まる。さすがにもう、ヒロインを演じる気力はないようね。
弥花は震えながら、その場を引きずり出されたのだった。