フルフェイスお面から脱却した飛には、新たな問題が立ちはだかっていた。
蒼爺に臨時の魔封じとして鱗を一鱗もらっていたが、1日でダメになってしまう。しかし飛の妖力は封じ込めなくては強すぎて、周りの妖魔族をも震え上がらせるほど。
蔡宰相たちは慣れてるらしく、平気そうだが。私もそう言えば……平気ね……?うーん、武芸はさっぱりながらも、お父さまの血を少しは受け継げたってことかしら……?
しかし……私だってただ黙って見てはいられない!蒼爺の鱗だって永遠じゃないのだから!私は祖国月亮からあるものを取り寄せていた。
「これぞ……っ!凶星をも封じる力の込められた魔封じよ!」
それは凶星が月亮の民となるために与えられたものであったが……。
「饕餮の代わりに私の旦那さまに使ってもいいかしらって、お父さまにお願いしたのよ。そうしたら、饕餮は飛の小間使いだから、その主に渡すのは構わないって」
「いやちょ……月亮皇のご厚意はそもそもだね……今、何つった?」
地角が何故かあたふたしていた。
「だから、地角は飛の側近だから……」
「小間使いって言ったよね!?今そう言ったよね……!?あの皇帝、桃のことも含めて俺たちのこと小間使い扱いしてない!?」
「何言ってるのよ、地角。桃叔父さまは肘掛け扱いよ!」
「そう言う問題と違ーうっ!」
「地角さん、月亮皇が父さんを『肘掛け』と呼ぶのは、愛情の裏返しですから」
と、範葉。
「どんな裏返しなの……!それと、それ……俺にも効くの……?」
地角が、お父さまからの仕送りを指差す。
「付けてみる?あ、でも地角はそもそもその指輪があるから……」
「あぁ……これか」
地角が指に嵌めた指輪を見せてくれる。
「それは一体どこで手に入れたの?」
陽亮は凶星を仕留める神の刃を振るう。しかし彼らを封じる術はない。彼らを封じる術を脈々と受け継いでいるのは、太陽の日陰でしか生きることのできなかった、月亮の皇族である。
それも封じると言っても、その有り余る妖力を隠すものでしかない。
つまり、月亮の民を脅かさず過ごすのなら、それを与えるから好きに生きろが月亮のモットーである。
だが月亮が受け継いでいるのは、各凶星一体につき一つずつ。桃叔父さまの場合は布面である。
それらを凶星に自由に与えられるのは月亮皇のお父さまだけだけど……今回饕餮用を送ってくれたのなら、地角のそれは、凶星用ではないのでは……?
「これは……俺が生まれた土地で付けられた、代々の饕餮の角から作られたものだ。何でも食らう饕餮の角だから、これは俺のとどまることのない妖力すらも食らう」
「そんなものが……受け継がれているの……?」
「そうだね。スイちゃんはまだ知らないようだ。俺たちはね、月亮で生かされることはできても、必ず妖魔族の決まった土地で生まれる。そしてその土地は、凶星が生まれる土地の妖魔族によって受け継がれる。延々とね」
そう語る地角はとても悲しそうだった。
「月亮まで辿り着き、月亮公の残像に辿り着けたならまだいいが……饕餮にはこんな代物が用意されているんだ。いくら願おうとも、その残像を追い掛けようとも、俺は……月亮公の元へは行けない」
地角の語る月亮公とは、地角の何代も前の始祖……神話の時代の饕餮が封具を賜った月亮の国祖のことだろう。
饕餮は一体どれだけ、自分自身の角に縛られていたのだろう。
「だが、今は違うだろう、地角」
寂しげな地角に寄り添ったのは飛である。
「凶星と呼ばれるお前たちを、閉じ込めることはもう私が許さない。そう、皇位を継いだ時に、決めた」
「……そうだったね。だから俺は……飛と共にいる」
「……あぁ。だが、もしお前が月亮公を……維竜皇を求めるのなら……っ」
飛ったら……そんな泣き出しそうな顔で……っ。
「何言ってんの。俺は肘掛けにされる義理はないよ。それに……少なくとも当代の俺の主は飛だけだ」
「……うん……っ、地角」
飛が安心したように笑みを見せる。
「そうよ、飛。飛がとっても大事にしてる側近よ?なのに私の旦那さまを泣かせるような真似をして月亮に会いに行ったら……多分地角はお父さまに半殺しに遭うわよ」
「……いや、恐いこと言わないでよ……でも桃に聞く限りは……やられそう」
「まぁまぁ、地角はこれまで通り、飛のそばにいるのだから……!それに、地角が飛に仕えてるってことで、お父さまがせっかく送ってくださったのよ?ほら、飛。付けてあげるから」
「スイが付けてくれるなら……っ」
飛が嬉しそうに私の前に立つ。やっぱりかわいいわ、このひと。
「飛……スイちゃんが付けてくれるなら、呪いの品すら平気で付けそうだ」
「付けないわよ……そんなもの」
付けてどうする!むしろ呪いの品担当は確実に地角でしょうが、この暗黒ドSっ!
そんなわけで、飛の両角に角飾りを付けてあげれば。
「うん……抑えられてる」
地角のお墨付きもあり、無事に飛の妖力も隠せたのだった。
これで蒼爺も安心ね。