私は生まれながらに、顔に醜い痣を持ち、腹違いの兄たちにはそれを理由に、皇太子に相応しくないと苛められてきた。
異母弟たちは庇ってくれたが、立場上異母弟たちは強くは出られまい。母上は私の幼い頃に旅たち、父上はそれも皇帝となるために必要な試練だと言う。
蒼爺はこれを先祖返りの兆しだと言ったが、そんなもの……私は欲しくはなかった。
しかし皇太子として、閉じ籠ってばかりいるわけにもいかなかった。私が閉じ籠れば、今度は異母弟たちが苛められてしまうから。私は外に出るしか……兄たちに苛まれるしかなかった。
そんな中、外交で月亮皇国に赴いた折、そこでも私は奇異の目に晒された。周りから突き刺さる視線の数々に耐えられなくなって、ひとり逃げ出し、城の庭の片隅にうずくまっていた。
「ねぇ、あなた、何してるの?」
不意に頭上からかかった声に顔を上げると、そこには美しい紫の髪と瞳の少女がいた。
「み……見るな……っ」
咄嗟に見上げてしまい、慌てて両手で顔を隠す。
「見られたくないの……?うーんと……」
少女は少し悩んだあと、自らの羽織っていたストールを外し、私の頭にふわりとかけてくれたのだ。
「見られたくないなら、それを巻いておくといいわ」
「でも……」
「いいのよ。私の叔父さまだって、いつも布面をしているのよ」
少女は人間だろう……?人間の叔父が、何故妖魔族のように布面をするのか。よほど見られたくない何かがあるのか……?私のように。しかし、私はその日、彼女に救われたのだ。
やがて迎えに来た護衛たちに連れられ、私は使節団の滞在先まで帰されたが……彼女との出会いは、忘れられぬものだった。
だから、こんな醜い顔でも……いつか、彼女に礼を言いたいと願ってきた。そんな折……弟たちが兄たちに閉じ込められたと聞き、暗い洞窟の中へと脚を踏み入れた。
「お前は騙されたんだ!」
「ここにアイツらはいねぇよ!」
兄たちの声だ……!
そして私は暗い洞窟の中へと、底へと落とされてしまったのだ。安直だった。騙されてしまった。
この帝都には……いや、妖魔帝国の城の地下には、とある凶星を封じ込める檻……洞窟がある。
そこは迷路のようで、誰も抜け方を知らない。古くから饕餮を封じてきたものたち以外は。
私がいなくなれば、弟たちはどんな目に遭うか……。こんな見た目の私でも、慕ってくれた弟たちだけは……守りたかったのに。
必死で出口を探したが、辺りは暗がりだけで何もない。
「……何故……私は……」
こんなにも無力なのだ。
【………………】
暗闇の中で何かが呼んだ気がした。
「誰か、いるのか……?」
【……は、……いない、もう、会えない……】
悲しい、声だ。
「お前は誰だ?」
闇の中に浮かび上がったのは、見覚えのある……あれは、魔除けの……。
「ここにいるのなら、お前は……」
闇の中、鎖に繋がれた獣がそこにいる。
「……ェ亮《リャン》公……」
それは、私が知っている月亮皇ではない。多分もう……いや、決して会うことのかなわない方だ。
「お前が饕餮《タオティエ》か」
その四柱の凶星は、帝国にの決まった種族の中に生じ、帝国が管理させる。
しかし月亮の神話を一度でも読んだことのあるものならば、何故彼らを月亮に還さないのか、疑問に思うだろう。
私は彼女に少しでも近付きたくて、かの国の神話にも触れた。だからこそ、分かるのだ。
「私に付いてくるか?お前の求める月亮公に合わせてやることはできないが、だが……私には、私の剣が必要だ。私の剣になってくれるか」
「剣……」
「そうだ。私と共に来てくれ」
「……」
闇の中から白い腕が伸びてくる。守りの種族たちによって作られた、代々の饕餮たちの角からできた封魔具と共に。
このような、痛々しいものを。しかし饕餮は笑う。やつらの手に渡るよりは、自分の手にあって欲しいのだと。
饕餮の手が私の手を取る。
そして私は、自らの剣に名を与えた。
地角と。
地の果てまでも、私はお前を欲しているから。
――――それからだ。今まで地角が置かれていた立場を知った。国が管理していた凶星の発生源には、無理に彼らを縛り付けることを禁じた。
兄たちを退け、弟たちを守り、成人と共に父上から皇位を譲り受けた。
兄たちは暴れたが、最後の慈悲をかけた。あれらも皇族として……父上がいたずらに妾に手を出さねば、歪むこともなかったのかもしれないから。
そして成人を迎え臣下に下る弟たちを見守りつ
つ、私はひとつの報せを耳にする。
「スイが……」
婚約解消したのだと……。
私はすぐに月亮皇に報せを飛ばした。妖魔帝飛雲が、スイを皇后に望んでいると……。