――――この世界で、南瓜布丁が食べられるとは思わなかった。南瓜はかぼちゃ。布丁とは……プリンのことである!
「んん~っ!美味しいっ!秋グルメがまさかスイーツにまで……!最高だわ!」
月亮のポテトフライと帝国の妖獣肉の炒め物も最高だし、妖獣肉巻きおにぎりもなかなか……!その上……デザートまでとは……!
女子としてはありがたい限りだわ。
「うむ、私もスイが喜んでいるのは嬉しい」
お役目を終えてステージを降りれば、飛雲が待っていてくれた。
尤も装いは皇帝ではなく城市に溶け込む庶民のものだ。
お面は相変わらず饕餮紋だが、この魔除けのお面は庶民にも愛されているので、他にも身に付けるものはいるから、庶民たちもまさかこれが妖魔帝本人とは、なかなか思うまい。
なお、帝都のグルメのお披露目は次のステージへ移っていく。この後は帝都民たちにも秋のグルメが振る舞われるから、大盛り上がりである。
「たまにはこうした活気に満ちた風景を見るのもよいな」
私には目元しか見えないが、そのお面の裏での表情はなんとなく分かるわ。民が活気に満ち、グルメの祭典を楽しんでいるさまを、飛雲は誇らしげに感じているのだ。
「スイ、実は蔡宰相から差し入れをもらったのだ」
飛雲の手元には、肉包や揚げ芋、肉巻きおにぎりなどがある。
「みなで食べれるようにと」
「蔡宰相ったら」
飛雲がこうして庶民の食べ物も楽しみたいのを分かっているのね。それも……みんなで。
ステージの裏手に用意してもらった賄いスペースには、地角、範葉、マオピーと胡艶が揃っていた。
テーブルの上には、他にもスイーツなども用意されていて、胡艶が喜んでいる。マオピーがスイーツを胡艶にあーんしてあげれば。胡艶がかわいらしくぱくりと口に含む。
「スイ」
飛雲がそっと肉包を差し出してくる。
「いや、スイちゃん食べたばかりだから」
するとその時、飛雲の手を制すように地角の手が伸びてきた。
「……なぬっ」
飛雲がビクンと肩を振るわせる……!ちょ……っ、相変わらずドS大魔王っ!あれ……大魔王って確か桃叔父さまがよく呼んでいるお父さまの愛称では……?いやいや、それよりも……!
「いいわよ。飛雲からのあーんはベツバラよ」
さながらスイーツはベツバラのごとし。
むしろこのぷるぷる震えだしたかわいい飛雲をそのままにはできないもの。
飛雲が手に持った肉包に口を近付け、はむり。
「ん……っ、おいひぃ」
「スイ……っ」
飛雲が嬉しそうに声を漏らす。
「でも、お行儀が」
範葉から小言が……っ。だけど……。
「大丈夫よ。お父さまだって、たまに桃叔父さまにやってるわ!」
「餌付けされてる……?」
地角が漏らすと、範葉が吹き出す。
「むしろされてなかったら驚きよ」
「そうかも」
地角はクツクツと笑いながら、自身も肉をつまんでいた。
「私も……スイを餌付け……?」
飛雲が何だか嬉しそうなのだが……いや、むしろ私の方が飛雲に餌付けしたくなってくるのだけど……。
「あーんは……難しいかしら」
お面ごしだもの。
「スイも……あーん、してくれるのか」
「でも、手元が不安定よ……?」
お面の中に差し入れて、鼻にぶつかっちゃったりしたら大変だわ。
「任せてくれ」
飛雲がそう言うのなら。揚げ芋をひとつ摘まんで、飛雲に近付ける。
「あーん」
すると私の手をぱしゅりと掴んだ飛雲が、そのまま自身の口元に誘導し、お面の下ではむりと口にした。
「……あ、ぅ……っ」
ちょ……っ、いきなりそんな……っ!?私があーんしに行った時はこんなにドキドキしなかったのに……っ、何で今だけこんなにドキドキするのか……っ。
「ん、美味しい」
うぅ……っ、餌付けしようとしたのに、これ、完全に主導権握られてない!?
こんな予定じゃなかったのに~~っ!しかし……そんなところも……悪くはないわね……。