――――その晩。

私たちは夫婦の寝室のベッドにいた。本来ならば皇帝が后の元に通うか、皇帝が招くものだ。
だから普通は夫婦共同の寝室と言うのは、後宮と呼ばれる場所にはないはずだ。
祖国でもそうだったし。まぁ、夜眠れなくてお父さまのベッドに忍び込んだことならあったけど、それもお父さまの専用のベッドで、お母さまが亡くなってからお父さまは他の妃を自分の寝所には招いていない。
務めたお役目だって、妃に子ができれば、役目を果たしたとして、後宮の他の妃の元に足しげく通うこともない。我が父もかなり特殊だったとはいえ……。

「飛雲はどうして夫婦の寝室を作ったの……?」
「嫁が来ると聞いて……マオピーと胡艶のように、夫婦の寝室で共に寝たかったのだ」
うーん、やっぱりかわいいわね、私の旦那さま。マオピーと胡艶のお陰で、ますますオトメに目覚めちゃってるんだから。もう寝る時間だけどね。

「スイは……好かないか……?」
「そんなことないわ。旅の時みたいで安心する」

「……そうか……。迎えに行って、良かった」
そう言えば……そうよね……?妖魔帝自ら……しかもお忍びで迎えに来るなんて。まぁ、私の前では全くお忍びではなかったが、うちの国のみんなは知らなかったようだし……一応お忍びなのかしらね。

「あの……飛雲」
「……スイ……?」

「どうして飛雲が、自ら迎えに来てくれたの……?」
「スイが……嫁に来ると聞いて……迎えに行きたかった」
何故私なのかしら。でもどうしてかそう語る飛雲が、何か懐かしいものを思い出すように穏やかに目を閉じたのだ。私……昔飛雲に会ったことがあるのかしら……?しかしその素顔を見たことがないから、ハッキリしないわね。

「やっとスイを国に連れ帰れたな」
まるで長い間待ち望んでいたような言い方をするのね。でも、政略結婚なはずなのに、こんなにも望まれて嫁いだのなら……こんな幸せなことはないわね。

さらさらと髪を梳く飛雲の指の感触が心地よくて、今日も私はすやすやと寝入ってしまったのだった。

※※※

――――翌日。
妖魔帝国城2日目。

遂に私は……!

「完成したわ!」
自分で言うのも何だけど、私ぬい!

「まぁ、かわいらしいですわ!」
胡艶もぬいの出来を見て喜んでくれる。これをぬいバッグに収納。
因みにバッグはこちらの民芸品を利用させてもらった。何となくだけど、前世のスマホ用ポシェット中華風って感じだわ。

「あとはぬいを飛雲に……お昼でいいかしら」
「えぇ、もうすぐ昼食のお時間ですし」
そうして胡艶と共に、昼食の席へと向かう。そこで遂にぬいをお披露目だ。

「じゃん、出来たわよ。ぬい」
「……こ、これが……っ」
渾身の私ぬいを見た飛雲は、ふるふると手を震わせながらも、ポシェットごとぬいを手に取る。

「ふわふわだからって、握りつぶさないでよ?」
ぬいがかわいそうだから。
「うむ、分かっている。スイのように、大切に愛でる」
わ、私のようにって……んもぅ、何か恥ずかしくなってきちゃったじゃない……!

「あ……あと、そのポシェットは持ち運び出来るようにってポシェットだから」
「持ち運びか」

「そうよ。ぬいだもの。部屋で飾ってもいいけど、持ち歩いていろんなところに連れていってあげるのもオツなのよ」
「そうか……ぬいとは素晴らしい」
飛雲は私ぬいを色んな角度から見つめながらウキウキしているようだ。

「特別に大好きなぬいは、推しぬいって言うのよ」
「推しぬい……私はスイが大好きだ……!」
「だ……だい……っ」
こんなところで大声で!?いや、言い出しっぺは私だけど……それはそれで照れるから……っ。
そして……大好き……私のことが……。いざ正面から言われたら、顔から火が出そうよ~~っ!

「スイ、早速昼ご飯にしよう。ぬいは肩からかけるか?」
「汚さないように、小卓の上においてあげるといいかも……」
まだドキドキしてるけども、そう述べれば、城の給仕たちがささっと小卓とぬいを入れられる小籠を用意してくれる。さ……さすがは城の給仕!小籠サービスまでつくなんて……!

そうして昼食を楽しめば、私ぬいのポシェットを肩から斜めがけにした飛雲がウキウキでお仕事に向かっていった。

「大成功でしたわね」
と、胡艶。
「う、うんっ」
あんなに喜んでくれるなんて……製作者冥利に尽きるわね。