――――ぬい作りを始めて……夜。
「そろそろお夕飯のお時間です」
「……あ……、いけない!」
胡艶に声をかけられ、気が付いた。
そうして仕度を済ませ、急いで飛雲の元へと向かう。
「お待たせ、飛雲」
「あぁ、スイ。座るといい」
「うん」
席に着けば、テーブルの上にたくさんの料理が並べられていた。
「旅の時のように、みなで食べる……と言うのは、なかなかできなくてすまんな」
「……いいのよ、祖国にいた時は、お父さまと晩餐を共にできたらいい方だったわ」
他はひとりで……なんてのも珍しくない。この世界の食事って言うのは、孤食ではなくみんなで卓を囲って食べるものなのに……皇族だけは特殊なのよ。
他の妃やその子どもたちと……とはなるまい。
……あ、だから飛雲は、旅の途中あんなに楽しそうにウキウキして……。飛雲ももしかしたら、みんなで食べるのが好きなのかもしれない。
「でも、これからは2人で食べられるわ」
1人じゃないなら……寂しくないわね。
「……うむ……そうだな」
飛雲が嬉しそうに頷く。
「だがたまにはお忍びで出掛けるのも良いぞ」
「あなたはもう……それもいいけど、でもさすがに帝都でそのお面じゃ目立つんじゃない?」
国境の城市は遠かったから、もしかしたら気付かれなかったようだが。でもこちらではお面を被った皇帝のことを知るものだっているかもしれない。まぁ、高貴な皇帝の顔を、国民に見せびらかしたりはしない慣習だから、庶民はなかなか皇帝の顔までは知らないことも多い。だがその特徴くらいは出回るものだ。
お父さまならその深い紫の髪や紫の目と言ったように。まぁ、皇子時代は各地で活躍した武人だったから、その当時に見た民もいたかもしれないが。
さらに私なら、皇都で慈善活動なんかもしてるから、見たことのある皇都民も多いでしょうね。
だから……お面を被っている妖魔帝の噂はさすがに広まるのでは……?
「それは大丈夫だ。我ら妖魔族には、お面や仮面を付ける種族もある。力の強い妖魔族は特に、平穏な日常を生きるものたちを脅えさせぬようにな。恐らく私以外にも見掛けることもあろうな」
「それなら……隠れ蓑にもなるわね。だけどそれ……饕餮紋って言わない……?」
むしろその方がヤバそうな。
「饕餮紋は魔除けの意味があるから、好むものも多いのだ」
まさかの人気のお面……!
「なら、私たちも気兼ねなく出掛けられるわ。それに、せっかくの帝都なのだから、胡艶も連れて行きましょ」
マオピーとラブラブなところ見たいし。
「うむ……!そうだな。みなが一緒の方が、楽しい」
帝都に来てからも、楽しみが増えて何よりね。こちらのご飯もなかなかに美味しいし。
でも調味料は……多分祖国からの影響もありそうなソース。
こんな細やかなところでも、交流しているなんて。嫁がなければ気が付かなかったかも。
「ところでスイ、人形……ぬいの進歩はどうだ?」
「今日少し夜更かしすれば、できそうよ」
「だがそれは肌に良くない」
それはそうなんだけど……オトメみたいなこと気にするわね。
「急ぐことはない。まだ后の仕事も完全には入っていないのだろう?」
「……うん、まぁ」
帰都後の飛雲とは違い、まだ私はスケジュール調整やら引き継ぎの準備やらで空き時間もある。
急な縁談だったってのもあるけど、旅の疲れを取ってリフレッシュして欲しいと言う意味もあるのだろう。……飛雲は早速仕事なのだけど。
「ゆっくりでよい」
「飛雲がそう言うのなら」
まだまだ私もお年頃だから……今夜はゆっくりと寝ることとしよう。