デロス村へと近づいてくるたくさんの馬車だ。
 軽く見積もっても二十台はある。

「随分な規模だな……」

 この平穏なデロス村にあれだけの馬車が一体何の用事で来るっていうんだ?
 そもそもラッセル村長に連絡のひとつもなくいきなりあれだけの人数で押しかけてくるとなると、よほど切羽詰まった状況なのかもしれない。もしかしたら、どこぞの商会が長距離移動中に何らかのトラブルが発生して急遽立ち寄ることにしたとか?

 いずれにせよ、彼らから事情を聞く必要があるだろう。
 そう判断した俺は、ラッセル村長と数人の村人を連れて馬車へと向かう。

 近づいて分かったが、先頭にいる馬に乗った若者が多数の馬車を率いているようだ。年齢はまだ十代半ばくらいかな。緑色をしたショートカットの可愛らしい――

「あれ? ロアムか?」
「お久しぶりです、ハリスさん」

 馬車を率いていたのは聖院時代からお世話になっているストックウェル商会で代表を務めるコービーさんのご子息ことロアム・ストックウェルだった。

「こんなところで何をしているんだ?」
「今日はストックウェル商会に所属するひとりの商人として、あなたに商談を持ってきたんです」
「ストックウェル商会ぃ!?」

 ロアムとの会話中に大声をあげたのはラッセル村長だった。

 あまりの大声にリーシャがビックリして俺の背後に隠れてしまったよ。
 
「きゅ、急にどうしたんですか?」
「い、いや、だって、ストックウェル商会といったら国内でぶっちぎりトップの規模を誇る大商会じゃないか!」
「それは知っています」
「その割には反応淡泊すぎないか!?」

 目を見開いて興奮気味のラッセル村長。
 うーん……確かに実績は凄いっていうのはよく知っているけど、代表であるコービーさんとはもう何度も顔を合わせているし、息子のロアムは幼い頃からよく知っている。

「このたびは急な訪問でお騒がせしてしまい、申し訳ありません」
「い、いえいえ、とんでもない!」

 なぜかロアム以上に恐縮しているラッセル村長。
 めちゃくちゃ緊張しているのに畳みかける格好となってしまうが、あとでグダグダするよりいいだろうと俺はロアムが商会代表の息子であると伝えた。
 すると、ラッセル村長の表情が露骨に歪んだ。

「おまえなぁ……いくらなんでもひどい間違いだぞ」
「えっ? 何がです?」
「あの子がご子息って……どう見ても女の子だろ」
「いえ、僕は男ですよ」
「ほら見たことか――って、えぇっ!?!?」

 これにはラッセル村長だけでなく村人全員が度肝抜かれたようだ。
 ……気持ちは痛いほど分かる。
 俺も最初は女の子だと思って接していたからな。

 ともかく、ロアムは俺に商談があると口にしていた。
 こちらとしてはまったく身に覚えがないのだが……もしかしたら、退職の挨拶が何かきっかけになっているのだろうか。
 その辺を詳しく聞く必要がありそうだな。