マイロス学園長からの贈り物は、俺がずっと欲しがっていた移動用使い魔の卵であった。
 それだけでも十分すぎるほどありがたいのだが、学園側のご厚意により、今日はここへ泊めてもらえることになったのだ。
 
 学園には学生と職員用の寮があって、俺とジュリクとロアム、そしてリーシャの四人は空いている部屋を借りて一泊する。
 ノーマン副学園長が部屋の手配をしてくれている間、俺は中央校舎を出てジュリクとロアムを捜しにいく。ロアムはこの学園の生徒のほとんどと顔見知りらしく、ジュリクを紹介していたのだが……あれからどうなったかな?

 中央校舎から出ると、目の前には大きな噴水がある。
 そこに何やら人だかりができていた。

「さっきより人が増えている?」

 気になった俺はリーシャとはぐれないよう抱きかかえ、人混みへと向かう。
 すると、

「はあっ!」

 男子生徒の勇ましい声が聞こえてきた。
よく聞くと、周りの生徒たちは何かを囃し立てているような?
 何事かと思って近づいた俺は、衝撃的な光景を目の当たりにする。

 なんと、さっき声をあげたと思われる男子学生とジュリクが戦っていたのだ。
 お互いが手にしているのは鍛錬用の物らしい木製の剣だが、それでも当たりどころによっては危険だ。
 もしかして……学園での生活を知らないジュリクが、何か粗相をして相手を怒らせてしまったのか?
 それとも、向こうが難癖をつけてきて火の粉を振り払うために戦っているのか。 
 いずれにせよ、このままではまずい。
 なんとかやめさせようと一歩前に出た――その時、

「ありがとうございました!」

 男子生徒の方がほぼ直角に腰を折り曲げてお礼の言葉を口にする。

「さすがは常に緊張感のあるダンジョンで暮らしてきた冒険者……実戦で鍛えあげられた剣の腕は、俺たちのような教科書通りの剣術とは数段レベルが違う」
「そんなことはありませんよ。理にかなった無駄のない動きでした」
「しかし、あなたには一撃も当たらなかった……」
「人間と獣人族とではそもそも身体能力が違いますし、そこまで落ち込む必要はないかと。これからいくらでも上達できますよ」

 ふたりは握手を交わしながら互いの健闘をたたえ合っている。ついには周りから拍手まで飛びだしたのだが……なにこれ?

「あっ、ハリスさん」

 混乱していると、そこへロアムがやってくる。
 曰く、生徒たちと談笑しているうちに、男子生徒のひとりが手合わせをお願いしてきたという。
 その戦いぶりが凄まじくて徐々に野次馬が増えていき、よく見たら職員っぽい人まで紛れている。ジュリクはそんなギャラリーたちから次々と声をかけられてちょっと戸惑っているみたいだな。

「すっかり打ち解けちゃってますよね」
「ははっ、そうだな」

 父親であるゾアンさんがこの光景を見たらなんて言うかな。
 次に訪問診察へ行った時のお土産話ができたよ。