マイロス学園長が俺に渡したかった物――それは使い魔の卵だった。

「うちで管理している運搬用の大型使い魔です。生まれたては小さいが、およそ一ヵ月で大人になり、しっかり働いてくれますよ」
「それは心強いですね」
「使い魔との契約の仕方は覚えていますか?」
「もちろん。とても興味深い内容だったので、しっかり覚えていますよ」

 以前この学園に来た際、使い魔の扱い方に関する授業を見学させてもらったことがある。魔草薬師という仕事をしていると、この手の業界には疎くなるから俺自身のために勉強をさせてもらった。
 まさかその時の知識がこんな形で役に立つとは。

「ならよかったです。職員の話では、あと二、三日中には生まれるそうだよ」
「もうすぐじゃないですか!」

 本当にギリギリだったんだな。
 でも……今さらだけど、

「本当にもらってもいいのですか?」
「もちろんです。私たち王立学園職員一同、亡くなったグスタフ先生の崇高な理念には賛同していますし、それを忠実に守って魔草研究をしているハリスさんを支援していこうと誰もが思っていますから。今回の卵の提供も、担当者たちが私に提案をしてくれたんですよ」
「そ、そうだったんですね……」

 めちゃくちゃありがたい話だ。
 それに……そういうことならむしろもらわないと失礼になるな。俺にとっても、自前の移動手段となる存在は欲しかったのでとても助かる。


「正直、あのスペイディア家が名乗りをあげた時はそちらに流れてしまうかもしれないと心配をしていたが……断ったそうだね」
「えっ? もうご存知なんですか?」

 ノーマン副学園長の言葉に、俺は思わずそう聞き返した。何せ、スペイディア家からの誘いを断ったのは昨日の話だからな。

「まあ、我々は独自のルートという物を持っているのだよ」

 なんだか意味深な発言をするノーマン副学園長。
 そういえば、ベイリー様は俺のもとを訪ねようとしている重要人物たちが何人かいて、すでにコンタクトを取っていると言っていたが……そのうちのひとつに王立学園もあったみたいだな。

「では、これはありがたくいただいていきます」
「うむ。――あっ、そうだ。これも伝えておかなくてはいけませんでした」
「なんでしょう?」

 尋ねながら振り返り、学園長の顔を見た瞬間――俺は息を呑んだ。
 マイロス学園長の顔つきは、これまでに拝んだことがないくらい真剣そのものだったのだ。

「すでに知っているとは思いますが、多くの組織や重要人物がレイナード聖院から距離を取りつつあります。今はまだ被害自体は少ないのでドレンツ院長もそれほど問題視していないのでしょうが……」

 何か言いたげでなかなか口が動かない様子の学園長。
 まあ、その先はなんとなく分かってはいるけどね。