学園の正門前に到着すると、守衛さんが出てきた。

「おや、ハリスさんじゃないですか」
「こんにちは、ジョニーさん」

 分厚い胸板を全面に押しだし、こちらへ歩いてくるジョニーさん。彼とは顔馴染みで、学園に入るまでの手続きが終わる間に世間話をするのが密かな楽しみになっている。
 
「マイロス学園長からお話はうかがっています。今回はいつものような手続きは必要ありませんので、このままお進みください」
「いいんですか?」
「こちらからお呼びしたわけですし、準備は整っておりますよ」

 さすがの手際だな、マイロス学園長。
 おかげでいつもよりすんなりと中へ入れた。
 まずは学園内にある厩舎に馬を預けようとしたのだが、

「わあぁ……」

 一歩足を踏み入れた途端、ジュリクが目をパッチリと見開いて辺りをキョロキョロと見回し始めた。彼女にとっては初めての学園になるわけだからな。きっと瞳に映るものすべてが珍しいのだろう。

「ロアム、馬は俺と御者に任せてジュリクのそばにいてやってくれ」
「分かりました」

 彼も仕事で父親と一緒に何度か学園を訪れているはずだから、敷地内の地理に関しては詳しいはずだ。それに、ロアムとジュリクはよい友人関係を築けているようだから、ふたりにしておいても問題ないだろう。

 リーシャを連れて厩舎へ行く途中で、学園の生徒たち数人とすれ違った。

「あっ、ハリス先生だ!」
「ごきげんよう」
「いつこちらに!」
「その子は……ご結婚されたんですか!?」

 もう何度も足を運んでいるうちに、すっかり顔も知られてしまった。剣術や魔法の実技授業で負傷したり、治癒魔法に関しての意見交換をしたりと方々へ顔を出していたからな。ちなみに何人かにリーシャを娘だと間違われた。

思い返してみると、前に学年主任の先生から短期で講師をやらないかと誘われたっけ。

 そっちの道も興味はあったが、やっぱりグスタフ先生のもとで魔草薬師としての道を究めたいという気持ちが強く、断ったんだよな。

 そういえば、フィクトリア様とエマ様も今日は学園にいるんだよな。
 今回はマイロス学園長に用があって来たわけだけど、機会があれば挨拶くらいはしておいた方がいいかな。

 馬を厩舎に預けて戻ってくると、ジュリクとロアムは数人の生徒たちと楽しそうに談笑していた。きっと、ロアムは俺と同じようにここへ何度も通っているうちに年の近い子と仲良くなっていて、その子たちにジュリクを紹介しているのだろう。

「邪魔をしちゃ悪いな……ここは俺たちだけで行こうか、リーシャ」
「あい!」

 若者たちには交流を優先させつつ、俺たちは目的地である学園長室を目指して中央校舎内へと入っていった。