アントルース家から戻った次の日。
 ベイリー様によると、王立学園のマイロス学園長は俺に渡したい物があるらしい。学園にあっても無駄になるだけとの話だったので、たぶん魔草絡みだとは思うんだけど。

 いつものように近くの川で顔を洗おうと外に出ると、なんだか違和感を覚えた。
 
「あれ? テントが少ないような……」
 
 今外にテントで暮らしているのはジュリクとロアム、それとロアムのサポート役としてストックウェル商会の商人が数人帯同していたはずだが、彼らが使っていたテントがなくなっていたのだ。

「あっ、おはようございます、ハリスさん」
「おはよう、ロアム。きなりで悪いが、ちょっといいか?」
「なんでしょう?」

 俺はこの場からいなくなった他の商人たちについて尋ねてみた。
 
「彼らは村に構えた店舗の管理に行っています」
「村に店を?」
「ラッセル村長が乗り気になってくれているんです。うちとしても、ここに新しい商業ルートを確保できれば今後仕事がやりやすくなりますし、父も喜んでくれると思うんです」
「なるほど。そいつは名案だな」

 商売はもちろん、父親のために頑張るという姿勢もいいな。
 まったく、ドレンツ院長にも少しでいいから見習ってもらいたいものだ。父親であるグスタフ先生は金にまったく興味がなかったというのに……もしかして、その反動が出たのか?

「……そんなわけないか」
「? 何がです?」
「いや、こっちの話だ」
「おはようございます、ハリスさん」
「あいあーい!」

 ロアムと話していたら、そこにリーシャを抱いたジュリクがやってくる。ふたりにも朝の挨拶をしようと振り返る――が、俺とロアムは寝ぐせだらけで爆発したような髪型になっているジュリクの姿に思わず噴きだしてしまった。

「ど、どうしたんですか?」
「髪が凄いことになっているよ、ジュリク」
「えっ? あっ……す、すいません。いつもはしっかりセットしてから出るのですが」
「出発するまでに僕が直してあげるよ。ちょうど櫛もあるしね」
「では、よろしくお願いします」

 いつの間にか仲良くなっている女の子ふたり――っと、ロアムは男だったな。こうして見ていると、可愛い女の子たちがお互いに協力をして身支度を整えるという美しい光景にしか映らない。

 さて、いつまでも眺めているわけにはいかないので、こちらも準備を進めるか。

「おいで、リーシャ。今日もお出かけだから着替えないとな」
「あい!」

 学園か……ついこの前、聖院をやめた報告をしに行ったばかりだが、まさかこんなに早くまた訪れることになるとは思ってもみなかったよ。