スペイディア家が慌ただしく帰っていった後、俺は改めて経緯をベイリー様に話した。

「やはり動いてきたか……」

 どうやら、ベイリー様はスペイディア家の動きを予期していたらしい。

「どんな返事をしたかは、フィクトリアの表情を見ていれば分かるな」
「えっ? そうなんですの?」

 応接室でのんびりお茶をしていたフィクトリア様はビックリしてこぼしそうになるが、それをなんとかこらえてこちらへと視線を送る。

「もし、ハリスがここを離れると判断していたら、今頃は泣き叫んで大騒ぎとなっていただろうからな」
「そ、そんなことはしませんわ!」
「ははは、だといいがな。とにかく、取り乱した様子もなく私を出迎えてくれたところで察したよ」

 そこまで読んでいたとは……さすがは親子だな。逆に読まれた側のフィクトリア様は腑に落ちないといった感じだったが、まあ、素直な人だからなぁ。
 
 話は変わって、ベイリー様がどこへ行っていたのか、その目的地について語ってくれた。

「実は今日、王立学園を訪問したんだ」
「王立学園?」

 そこには何度か診療のために俺も訪れたことがある。怪我や病気の治療以外にも、健康診断だったり、治癒魔法の資料を読みに行ったり、いろんな目的でお邪魔したな。
 
「学園へは何をしに行かれたのですか?」
「君も会ったがことがあると思うが、あそこの学園長とちょっと話をしてきたんだ。そこで君の話題が出てね。

 そこまで話すと、ベイリー様は「そうそう」と手をポンと叩いてから追加の情報を教えてくれる。

「話の中で学園長から君へのメッセージを受け取ってね。渡したい物があるから、機会があれば一度学園へ足を運んでほしいとのことだ」
「俺に渡したい物?」

 レイナード聖院をやめる時に挨拶をするために行ったけど、それとは違って何か俺に用事があるらしい。

「何でもかなり珍しい物らしいよ。ただ、学園に置いていても意味はないだろうから、君に有効活用してもらいたいそうだ」
「い、一体何なんでしょうか……」
「それはもらってからのお楽しみにしておいた方がいいだろう。もっとも、私も何を渡そうとしているのか教えてもらえなかったので追及しても無駄とだけは言っておくよ」
「は、はあ……」

 学園にあっても効果はなく、俺に有効活用してほしい――となると、魔草にかかわるアイテムだろうか。

「では、明日にでも学園へ行ってみます」
「分かった」
「ハリスさん、僕もついて行っていいですか?」
「もちろん。頼りにしているぞ」
「はい!」

 力強く返事をするロアム。
 その横にあるソファで寝ていたリーシャとジュリクを起こし、俺たちは暗くなる前に森の中の診療所へ帰る準備をする。
 その時、フィクトリア様が馬車までやってくる。

「あの……ハリスさん」
「どうかしましたか、フィクトリア様」
「い、いえ、その……なんでもありませんわ」

 何か言いたそうだけど、それグッと呑み込んで屋敷へと戻っていったフィクトリア様。
 ちょっと気にはなるが……また今度聞いてみるとしよう。