スペイディア家のご令嬢であるエマ様は、俺の意向を汲んでくれるようだ。

「し、しかし、エマ様……アーノルド様は――」
「お父様のやり方は強引すぎます。ハリスさんにはハリスさんの生活があるのですから、それを無理に曲げさせる必要はありません」

 最初はオドオドした態度にも見えたが、今は堂々としている。初めて来る場所ということもあってか、慣れていないように見えたけど、さすがは公爵家のお嬢様ってところか。

「大丈夫ですよ、グラシム。お父様には私から言っておきますから」
「で、ですが……」
「専属は難しいですが、訪問治療の形態でなれば可能ですが」

 ダメもとでそう提案してみた。
 公爵家としてのプライドもあるだろうから、専属でないとダメって断られるんじゃないのかと思いきや、俺の言葉を耳にしたエマ様はパッと花が咲いたように微笑む。

「よろしいのですか!?」
「え、えぇ、スペイディア家の方がそれでよろしいのならば……」
「十分ですよ。あなたの誠実さはさまざまな人から聞いていますから。確か、必要な時は使い魔でお伝えすればいいのですよね?」
「は、はい。もし何かあればすぐに駆けつけます」
 
 とはいえ、スペイディア家の屋敷となったら距離があるな。いや、他の人たちのところも緊急事態となったらすぐに駆けつける必要がある。こちらも高速で移動できる手段がほしいところだな。

 話がまとまろうとしていた時、何やら廊下の方からバタバタと凄い足音が近づいてくる。
 なんか……懐かしいな、この感じ。

「な、なんだ?」

 突然の足音に驚いたグラシムさんは、咄嗟にエマ様の前に出て守ろうとする。その判断の速さはさすが騎士と言うべきか。
 でも、たぶんあの足音は王立学園に通っているらしいエマ様も会ったことがあるかもしれないもうひとりのお嬢様だ。

「ただいま戻りましたわ!!」

 応接室のドアを勢いよく開けて入ってきたのは――アントルース家のフィクトリアお嬢様だった。

「お久しぶりです、フィクトリア様」
「っ! ハリス様!」

 俺を発見したフィクトリア様は笑顔で駆け寄ろうとする――が、その前に視線がエマ様とぶつかった。

「ごきげんよう、フィクトリアさん」
「エ、エマさん!?」

 さすがにスペイディア家のエマ様がいるのは予想外だったらしく、フィクトリア様は飛び上がって驚く。相変わらず元気な人だなぁ。

「ど、どどど、どうしてエマさんがここに!?」
「今日はハリスさんにお話があって来たんですよ。トラブルはありましたが、それもハリスさんが助けてくれて」
「ハ、ハリスさんが!?」

 うん?
 なんか雲行きが怪しくなってきた……?