ジュリクの態度が一変したことで、周りの騎士たちも何事かと警戒態勢を取る。
 まずい。
 このままだと誤解されてしまう。

「ど、どうしたんだ、ジュリク」

 フォローを入れようと声をかけた――と、ジュリクは俺の両腕を強く掴み、真剣な眼差しで語りだす。

「ハリスさん……誰かが襲われています。遠くから悲鳴が聞こえました」
「お、襲われている!?」

 いきなりとんでもないことを言いだすジュリク。
 こんなにのどかで穏やかな日和だというのに、一体どこで誰が襲われているというのか。騎士やメイド、さらにリーシャやロアムも突然の事態に困惑していた。
 だが、ジュリクの表情は真剣そのものだ。
 とても嘘や冗談を言っているようには見えない。
 ……いや、そもそも彼女はそんなくだらない嘘や冗談で場を混乱させるようなタイプの子じゃない。いつだって真剣勝負を求められるダンジョンで長らく暮らしてきたのだ。今回もきっと大真面目なのだろう。
 獣人族は人間よりも五感が鋭いらしいし、本当に何か聞こえたのかも。

「早くしないと手遅れになるかも」
「わ、分かった」

 俺は彼女の言葉を信じ、辺りの見回りへ出ることにした。 
それと、念のため屋敷周りの警備を厳重にしておいてもらうように騎士たちに伝えておく。彼らは半信半疑といった感じだったが、ロザーラ様が「ハリスの言う通りにしなさい」というひと言ですぐさま部屋を出て対応に向かった。

 本来の目的である魔草は戻ってきてから渡すことにし、俺たちはロザーラ様へ断りを入れてから屋敷の外へと向かう。

「もしかしたら戦闘になるかもしれません」

 屋敷から出てすぐにジュリクが新たな情報を付け足す。そう聞かされてはロアムとリーシャを連れて行くのは避けたいところだが、すでにふたりは臨戦態勢でついてくる気満々だ。

「大丈夫です、ハリスさん! 自分の身は自分で守ります!」
「あいあい!」

 正直、悩むところではあるが、ひとりでも戦力になりそうなら連れて行きたいし、何よりロアムのサポート役としてついてきている商人たちも協力してくれるそうなので、ここは全員で行こうということになった。

「ジュリク、悲鳴が聞こえた方向へ案内してくれ」
「はい。こちらです」

 俺たちは馬車に乗り込むと、昼寝をしていた御者を叩き起こして目的地へと急ぐ。
 悲鳴というからには、きっと非常事態が起きているに違いない。
 それにしても……アントルース家の屋敷の近くで何が起きたっていうんだ?
 今は当主であるベイリー様も不在だし、物騒な事態になっていなければいいのだけれど。