翌朝。
 今日も窓から差し込む朝日と小鳥のさえずりで目を覚ます。
 外へ出ると、まだ朝霧がかかっている状態だが、すでにロアムとジュリクは目を覚ましており、さらに外で寝ていたアルラウネのリーシャも加わり、とても楽しげに会話をしている。三人は朝食の準備に取りかかっているようだが……商人たちの姿が見えないな。

「おはよう、みんな」
「おはようございます、ハリスさん」
「おはようございます……」
「あーい!」

 ロアムとリーシャは元気だが、心なしかジュリクは眠たそうだな。

「ジュリク、寝不足か?」
「いえ、そういうわけでは……」

 と、言いつつもあくびをかみ殺している。もしかして、慣れない場所だから緊張しているとか……いや、さすがにそれはないか。
 とりあえず、それはひとまず置いておくとして、今は商人たちのことを聞いてみないとな。

「ロアム、他の商人たちはどこへ?」
「デロス村へ行っています」
「村へ? なぜだ?」
「実は昨日の夜中にディバンにある商会本部から使い魔がメッセージを持ってきたんです。それによると、アントルース家での話し合いが終わったので、それに関する追加情報と補給物資を届けてくれるみたいです」

 補給物資というのは、恐らくデロス村で売る商品がメインだろうな。
 ロアムが村に商会の支部を設けると決まってから、商人たちは村人たちに必要な物を聞いて回っていた。それを売って商売をしようというつもりなのだろう。使い魔がもたらしたメッセージの内容から、すでにベイリー様とは接触しているようだし、この土地で商売をする許可を得たから本格的に動きだすみたいだ。

 これは領主のベイリー様としても嬉しいだろうな。
 ――っと、ベイリー様といえば、今日あたり屋敷を訪ねてロザーラ様の容態をチェックしておくか。

「俺は朝食を済ませてから少し出てくるよ」
「どちらへ行かれるのですか?」
「アントルース家のお屋敷だ」
「でしたら、僕も同行したいです。領主様へ直接挨拶をしたいですし」
「私は護衛としてついていく……」
「あいあいあい!」

 ロアムに続いてジュリクとリーシャもついてくると主張しているが……まあ、いいか。ジュリクは護衛役として必要だし、そうなるとリーシャをひとりでここに残しておくわけにはいかない。ダンジョンの時のようにすぐ戻ってこられるとは限らないからな。

「よし。それじゃあ朝食を済ませたら各自準備を初めよう。それと、一度デロス村へ立ち寄って、商人たちにこの件を伝えておかないとな」

 俺がそう呼びかけると、三人とも元気よく「はい」と返事をくれた。
 なんだか、こうしていると保護者になったような気持ちになってくるよ。

 さて、俺の方は俺の方で、ロザーラ様に何かあった時のための魔草を用意しておかないといけないな。
 そういえば……フィクトリア様はどうしているだろうか。
 年齢の近いロアムやジュリクを見ていたら、ふと彼女のことが脳裏をよぎる。
 まあ、あの方は学園に通われている身なので、ふたりのようにこちらへやってくるなんてことはないのだが――なんだろう。妙な予感がする。

「どうかしましたか、ハリスさん」
「い、いや、なんでもないよ、ジュリク」

 やめよう。
 こういう嫌な予感は膨らませればするほど真実になってしまうような気がする。
 さすがにお嬢様まで加わったら、テント生活どころじゃなくなるだろうしね。