ダンジョンでのトラブルを解決し、森の中の診療所へと戻ってきた俺たち。
 ただ、今回は出発した時と違って新たにひとり加わっている。

「これでテントは完成です」
「わあぁ……さすがは一流冒険者。僕らよりずっと手際がいいね」
「そんなことはありません。私なんてまだまだひよっこですよ」

 診療所は狭いので、新加入のジュリクはロアムたちと同じくテント住まいとなる。そのロアムは年の近いジュリクがひとりであっという間にテントを設営したのに感動し、そこから話の話題が膨らんで何やら楽しげに会話を繰り広げている。

 もっとも、この状況を一番喜んでいたのはロアムについてきたストックウェル商会のベテラン商人たちだった。

「ロアム坊ちゃんにお友だちができるとは……」
「この光景をぜひともコービー代表にお見せしたい……」

 どうやら、ロアムとジュリクが仲良くしている光景に感激しているようだった。
 話を聞いてみると、ロアムは父親であるコービーさんのような立派な商人となるため、幼い頃から世界中を旅してさまざまな経験を積んできた。その甲斐もあって、いろんな国の経済事情に詳しくなったのだが、一方で親しい友人がいないという事実に悩んでいる素振りもあったという。

 だが、ここへ来てジュリクという自分と似た環境の少女と出会った。
 ジュリクもまた、物心ついた時から一流冒険者となるため世界中のダンジョンで修行をしてきた。
 生まれ育った環境が似ていると互いに感じ取っているのか、ふたりの会話は止まりそうにないくらい弾んでいる。俺としても、いい効果が出ているようでひと安心だ。

「さて、今回の旅では魔草を結構使ったから補充をしておかないとな。頼むぞ、リーシャ」
「あいあい!」

 俺の言葉を受けて、リーシャは得意げに頷きながら畑仕事に取りかかる。
 ダンジョンでの一件で、彼女が育てた魔草が大好評だったこともあり、自信をつけているようだ。魔草使い《プラント・マスター》のスキルを持つ俺としては、この調子で彼女にバシバシと魔草を育成してもらいたい。
 とはいえ、すべてをリーシャに任せきりというのもいただけないので、俺自身も魔草の栽培には力を入れている。

「今回は回復系魔草を大量に消費したからそれを補充して、それから別種の魔草もいくつか植えておくか」

 目標を定めると、リーシャと一緒に作業へと取りかかる。
 一方、ロアムとジュリクのふたりは食料確保のため川で魚釣りをすると提案してきた。どうやらジュリクがナイフで簡単な構造の釣り道具一式を作りあげたらしい。

「やるじゃないか、ジュリク」
「食料調達は冒険者として身につけておく基本事項のひとつなので」
「ははは、頼もしいな」

 相変わらず無表情ではあるが、褒められてちょっと嬉しそうなのは伝わってくる。
 さて、夕食の材料は彼らに任せたい――ところではあるが、ちょっと心配なのでリーシャと一緒に山菜を集めにいくか。