ダンジョンに突如現れた敵の正体。
 それは巨大なカマキリ型のモンスターであった。

 体長は五、六メートルくらいあるだろうか。駆けだしの冒険者たちが相手をするにはあまりにも大きすぎるし、何より狂暴で手がつけられない。

「み、みんなあの鎌にやられたんだ……」

 怯えている冒険者のひとりがそう語る。
 確かに……俺のもとへ治療に訪れた冒険者たちは、何か鋭い刃物のような物で切り裂かれた傷が目立った。てっきり、狼なんかだと思っていたが、まさかカマキリだったとはな。

「ハ、ハハ、ハリスさん!? なんか凄く大きなモンスターが出たんですけど!?」

 声を震わせながら俺にしがみついてきたのはロアムだった。ストックウェルの後継ぎとして世界中を旅してきた彼も、あの巨大なカマキリは初見のようだ。

 ……しかし、こうして涙目になって怯えている姿はどう見ても女の子だよなぁ。父親であるコービーさんとはまるでタイプが違う。母親似であるのは間違いないが、それにしたってあそこまで女の子っぽくなるとは。

 ――と、それはさておいて、あのモンスターをどうにかしないとな。
 みんなの治療はそれからになるだろう。

「どうやらこのモンスターが敵のようですね。ただちに排除します」
 
 一方、短刀を構えていたジュリクはカマキリ型モンスターを敵と認識し、戦闘を仕掛けた。

「あ、あんな女の子が勝てるわけない!」
「やめるんだ!」

 カマキリ型モンスターに襲われて負傷した冒険者たちは、ヤツがどれほど強いか身に染みて理解している。だから、ジュリクのような女の子では勝てないと思ってすぐに退くよう叫んだのだ。

 だが、彼らの心配は杞憂に終わる。
 モンスターが大きく鎌を振り上げてジュリクへと斬りかかる。冒険者たちやロアム、そしてついてきた商人たちは目を背けるが、次の瞬間、「ボトン」という重量感ある音を立ててモンスターの右腕――つまり右鎌が地面に落ちた。

「ギイイイイイイイイイイッ!?!?」

 突然自分の腕が吹っ飛んだことで、カマキリ型モンスターは大声をあげてパニック状態に陥る。それを見たジュリクは身をかがめてジャンプ。その跳躍力は人間のそれを遥かに凌駕し、あっという間にモンスターの首元まで到達する。

「トドメです」

 それだけ呟くと、ジュリクは手にした短刀をひと振り。それだけで、モンスターの首は弧を描いて飛んでいった。岩壁に激突して転がる首と、横たわった巨体を眺めてから、

「対象の絶命を確認」

 ジュリクはそう言って刃についたモンスターの血を散らすように短刀を振った。

「やれやれ、相変わらず見事な戦いぶりだな」

 必要最小限の動きで最大級の効果をもたらす。
 彼女の父親であるゾアンさんの口癖だ。

 ともかく、これで脅威は去った。
 あとは怪我人たちを連れて地上へと戻り、治療の続きをしなくちゃな。