治療をしても次から次へと負傷者が出てくる。
 まだダンジョン内には取り残されている冒険者も多いらしいし、こうなったら中へ入って根本から絶たないと増えていく一方だ。
 そうロアムへと告げたら、

「ダンジョンに入るんですか!?」

 めちゃくちゃ驚かれた。
 さらに、彼のサポート役として同行している商人たちも難色を示していた。

「ハリス殿、気持ちは分かりますが……戦闘に関して我らは素人です」
「周囲の冒険者たちも経験の浅い若者ばかりで、同行をお願いしても咄嗟の事態に対応できるとは思えません」

 彼らの言葉はもっともだ。
 俺は治癒魔法、そしてロアムたちは商売のプロ――だが、ことダンジョン探索については全員素人。おまけに武器のひとつも持っていない。一応、炎魔法と同等の効果を得られる魔草を携帯してはいるが、いきなり実戦での使用はためらわれる。かといって、現状のままでは最悪死者が出てしまうかもしれない。

「せめて、経験豊富な冒険者がひとりでもいてくれたら……」

 何気なくそう呟いた直後、突然誰かが俺の服の裾をチョイチョイと引っ張った。
 驚いて振り返ると、そこには見知ったひとりの少女が。

「っ!? ジュ、ジュリク!?」
「どうも」
 
 少女の名前はジュリク。
 獣人族の身で構成された冒険者パーティー《鋼の牙》でリーダーを務めているゾアンさんの娘だ。
 虎の獣人族である彼女は普通の人間とほぼ変わらない見た目をしているものの、虎耳や縞々の尻尾、そして人間を遥かに超越する身体能力を有している。おまけに物心ついた頃からダンジョンでの活動を行っており、まだ十四歳ではあるが、この場にいる誰よりも経験豊富であるのは間違いなかった。

 ――いや、それより何より、

「どうして君がここに……?」

 ジュリクの所属する《鋼の牙》は、大陸でも屈指の強豪パーティーとして知られている。確か今は難易度がもっとも高いとされる星屑迷宮を拠点に活動をしているはずだ。ハッキリ言って、ここのダンジョンのレベルは物足りないと思われる。

 となると、彼女がここへ来た目的は探索じゃないってことか?
 答えを待っていると、ジュリクはゆっくりと語りだす。

「父さんがハリスさんの力になるようにと、私もここへ送りだしました。聖院を出て困っていることも多いだろうから、私の戦闘力で助けてやりなさいと」
「ゾアンさんが?」

 いつもの調子で淡々と表情を変えることなく語っていくジュリクだが、最後に、

「とはいえ、父の意向に関係なく、困っているあなたを助けたいというのは私の意思でもありますので」

 そう付け加えた。

「ありがとう、ジュリク。今まさに君の力を借りたいところだ」
「ダンジョンへ入るのですね? おともします」

 これはめちゃくちゃ心強い助っ人だ。
 ジュリクがいてくれたら、安心してダンジョン内に足を踏み込める。