多くの冒険者が負傷しているというダンジョンへとたどり着くと、そこは思っていた以上に修羅場と化していた。

「これはひどい……」

 突発的に発生した事態だったということと、ちょうど治癒魔法師がよそへ出払っている時期が重なったという不運もあり、辺りには未だにまともな治療を受けられない冒険者たちで溢れていた。

 初心者向けダンジョンに挑む彼らは、まだ冒険者になって日が浅い。中には数日前にダンジョンデビューをしたって者も少なくないはずだ。
 そんなわけなので、この場にいる冒険者の多くは貧しい生活を送っている。
 聖院に足を運んでも、ドレンツ院長の方針で治療費はめちゃくちゃ高額に変更されてしまったため、追い返されるのがオチだろう。

 ――そういう人たちを救うために、俺は魔草の研究を続けてきたのだ。
 結果として聖院を追いだされてしまったけど、こうして目の前に多くの負傷者がいるならすぐに助けないと。

「よし。俺の魔力と魔草が尽きるまで徹底的にやるぞ」

 気合を入れ直した俺はロアムたちストックウェル商会の人たちにも協力を仰ぎ、負傷した冒険者たちへ俺のもとに来るよう伝え歩いてもらった。

「ほ、本当に診てもらえるのか?」
「た、助かる……」

 若い冒険者たちが次々とやってくる。
 俺は彼らひとりひとりに治癒魔法を使って回復させていった。

 また、アルラウネのリーシャにはこの場で可能な限り魔草を育ててもらうよう頼む。それほど時間はかからないはずだが、負傷者の数が数だけに少し不安は残るな。

「頼むぞ、リーシャ」
「あい!」

 フンス、と気合を入れて取りかかるリーシャ。素直でホントにいい子だな。どこぞの院長にも見習ってもらいたいくらいだ。

 さて、こっちはリーシャに任せておくとして、俺は治癒魔法を続けていく――が、やがてその時がやってきた。

「さすがにこれ以上はキツイか……」

 連続して二十人以上を回復させたところで、魔力に限界が見えてきた。腕の良い治癒魔法師ならば五十人以上を相手にしてもケロッとしていられるのだろうが……今の俺ではこの辺りが限界か。

 負傷者の数は残り十数人。
 さらにダンジョンではまだ戻ってきていない冒険者もいるという。現に今も帰還した負傷者が増え続けている。
 全員の治療はとても無理だ――治癒魔法に頼るだけでは。

「ここからが魔草薬の出番だな」

 俺は持ってきておいた魔草を戻ってきたばかりの負傷した冒険者たちへ配っていく。
 最初は疑いを持っていた冒険者たちであったが、受け取った魔草をちぎり、そこから染み出てくる液体を傷口に当てることで見る見るうちにふさがっていく様子を見ると驚きの声があちこちから聞こえてきた。

 ――しかし、現段階では完全回復には至らない。
 これはあくまでも応急処置。
 こうなると、やはり問題の根本を断たなくちゃいけないみたいだな。