全てを無かったことにするわけじゃないけど。新しい出発として、新しい俺として、ソウという名前で活動を始めるのも、アリだ。

 涼音と本当に、もう会えなくなるんだろうか。人魚になるだなんて、嘘だろ。いまだに、信じきれなくて、ただ、波が揺れるのを見つめる。

「何考え込んでんの?」
「また、会えるかなって」
「どうだろう。会えるかもね」

 涼音の言葉に、胸が震える。海に来れば、いつだって会える。そう答えてくれたら、嬉しかったのに。それでも、会えるとは言ってくれない。涼音をぎゅっと力強く抱きしめた。

「なになに、急に、ってか、この角度、サムネにしたらバズりそう!」

 すぐにそういう思考に行く、涼音を頼もしく思う。ちょっと残念感はあるけど。だから、頬にちゅっと軽くキスをした。

「な、不意打ち!」
「とりあえず、両思いだった幸せを噛み締めませんか」