どうしようもない、そんなことはわかってる。わかってるのに、心が諦めてくれない。俺は、マリンに会いたい。もちろん、海夢にも。

 俺の心を支えてくれた人だから。そして、傷つけたことを謝りたい。たとえ、許されなくたっていい。マリンのことを好きな気持ちばかりが、走り出して、マリンを探してる。

 それに……諦めないことは、マリンが教えてくれた。だから、俺は、マリンに会いたいを伝える。どんな手を使っても。

「諦めねーよ」
「そういうと思った。どうする? 湊音として、動画で探す?」

 海夢を探しています。そう書いたら、きっと視聴者は探してくれる。でも、海夢の迷惑になるだろう。
 だから、それはしない。まずは、炎上の訂正をしよう。ルミカさんの勘違いだったこと、謝罪をしたこと、そして、活動を再開すること。

 マリンが、まだ俺の動画を見てくれるって、信じてる。

「動画撮る。付き合ってくれる?」
「もちろん。撮影でも編集でも」

 ミツルはすぐに近くのレンタルスペースを調べて、スマホで予約を取ってくれる。残っていたパンを、胃の奥に詰め込む。マリンに、俺の思いを伝える。

 俺は間違ったことをしたとは、今でも思っていない。
でも、勘違いで視聴者を裏切ったと思わせたこと。湊音ということを隠して、カップルチャンネルをしていたこと。
 視聴者にすべて、謝ろう。許されなくていい。ただ、謝って、またやり直すんだ。湊音として。

 湊音なら、マリンはきっと見てくれるから。

 パン屋を出れば、風が強く背中を押した。横断歩道を渡って、ミツルのナビに従ってカラオケ店へと向かう。山形駅は、高校生も多く賑わっているように見えた。

 ここは、海の音がしない。少しの寂しさを感じながらも、ビルの合間を眺めた。ビルとビルが、太陽の日差しを少し和らげてくれる。

「あったあった、あそこ」

 ミツルの指をさした先には、カラオケ店が、ビルの一階に入っていた。目の前には、スナックやラーメン屋さんなど、所狭しといろいろな店が並んでいる。大人の雰囲気だと思いながら、カラオケ店の扉を開ければ、地下に階段が繋がっていた。

 受付を済ませて、取れた部屋に入る。物静かな空気と、会議室のように並んだ椅子を見つめる。ミツルにスマホを渡して、深呼吸した。

「撮ってくれ」
「何をいうかとか、決めなくていいの?」
「素直な気持ちで、そのまま言葉にする」
「そう……わかった」

 ミツルが、こくんっと頷いてスマホを俺に向ける。スマホに向かって、今の気持ちを言葉にしていく。

「まずは、皆様に謝罪をさせていただきたいです」

 炎上してしまったこと。勝手に消えたこと。カップルチャンネルを、名前を隠してしていたこと。

 そこまで口にして、喉の奥がカラカラに乾いた。水で、潤したい。それでも、言葉は止められなかった。

 まだ伝えたいことがある。湊音として、また活動していきたい。認めてほしい。マリンに届いてほしい。

 謝罪だけをするつもりだったのに、勝手にマリンへの想いを口にする。

「湊音だということを隠してカップルチャンネルはしていましたが、本当に、好きでした。本当の恋です。応援してほしいとは言いません。俺は、歌ってみたを上げる湊音としても、カップルチャンネルのソウとしても、これからも活動したいと思っています」

 マリンとの動画は、もう撮れないのに。それでも、願望が尽きることなく唇から溢れていく。喉の奥がかぁああっと熱を持っていくのが、わかった。

「迷惑をかけて申し訳ありませんでした。それでも、やっぱりまだ活動させてください。そして、カップルチャンネルの方は、しばらく、動かせないかもしれませんが、いつかまた、動画を投稿します」

 マリンの気持ちも置き去りに、俺だけの勝手な想いだけど。願掛けみたいなものだ。この言葉で、俺の思いがマリンに伝わればいい。

 ピッという録画が終わった音に、体の力が抜けた。

「撮り直す?」

 ミツルが心配そうな顔で、俺を見つめる。首を横に振って、否定した。支離滅裂でも、マリンの許可を得ずに願掛けのように発した言葉でも。
 今の俺の正直な、気持ちだ。だから、訂正も撮り直しもしない。

 それでまた、炎上するなら、またいくらでも謝罪をする。マリンに届くまで、俺はもうやめない。