夏の海に泡となって消えた君へ歌い続ける


 マリンの後ろに回って、パインサイダーをパソコンの前に突き出す。

「びっくりしたぁ」
「面白いコメントでもあった?」
 
 覗き込めば、投稿した動画のコメントを確認してる最中だった。
 マリンは俺の言葉に、首を横に振る。
 どんなコメントがあるのかと、俺も覗き込めば、二人で物産館を巡ってる動画。
 あの、ぶち炎上をした動画を見ていた。

 コメント欄に、見慣れた文字を見つけて、心臓が跳ね上がる。

『話してる声、聞いたことないけど湊音に似てない?』
『思ってた、湊音っぽい声だよね』
『湊音くんを思い出しました』
『湊音くんなら、戻ってきて欲しいです』
 
 一度も配信でも、歌ってる途中でも、話したことなどない。
 だから、聞いたことないのは当たり前だ。
 それでも、歌っていない動画に……こんなコメントが付くなんて。

 お土産に関するコメントや、初々しい俺たちへのコメントの間に挟まる『湊音』へのメッセージ。
 普通だったら、関係ないチャンネルにそんなコメント書かねぇだろ。
 見ていてくれていた大切な視聴者のはずの人たちのコメントに、変な汗が背中を伝っていく。

 ネットストーカーをしていた子も、最初は……
 湊音の声が好きだと言ってくれた子だった。
 それなのに、いつのまにか恋の歌を歌えば『私のことを思って歌ってくれたんだよね』と、DMが届くように。
 返事をしなければ、何通も何通も、届くDM。
 相手をして刺激をしてはいけないとわかっていたから、俺は見ないふりを続けていた。

 その内に、俺への想いは憎悪に変わっていく。

『私には返信してくれないのに! でもわかってるよ、恥ずかしいんだよね。私はいつでも、湊音の気持ちを受け入れれるよ』
『湊音の声を聞きながら寝たら、夢に出てきたの。何回も好きって伝えてくれてありがとう。大好きだよ』
『早く結婚したいね。湊音のプロポーズ楽しみにしてる』

 気分がいい時と、悪い時のジェットコースターのようにメッセージが、どんどんとおかしくなっていく。
 最後の方には、被害妄想と、他の視聴者への恨みつらみが綴られていた。