やっぱり迎えに行こう、と思って立ち上がる。戻ってきたマリンが扉の前で、止まってるのに気づいた。
扉を開けてやれば、両手にペットボトル。
「両手が塞がってて、開けられなくて困っちゃった! ごめんごめん、ありがとう!」
いつもよりやけに饒舌なマリンに、首を傾げながらも、ペットボトルを受け取る。ゴクゴクと一気に飲み込めば喉の渇きは、少しだけマシになった。
「やっぱ、もう一本買ってくる」
部屋を飛び出して、扉の前でしゃがみ込む。歌ってるのを、聞かれていたかもしれない。いつから、扉の前にいたのかわからない。
マリンが俺の動画を見たことがあるかどうかも、わからないけど。マリンの様子が、変だった。俺が炎上した奴だと知って、幻滅したかもしれない。悪い想像は尽きることなく、いくらでも頭の中で浮かぶ。
聞けば、答えてくれる? それとも、もう一緒にやるのやめようって言われるか?
頭が真っ白になりながら、イヤだなということだけは、わかった。マリンには、誤解されたくない。
長時間戻らないのも、変だろう。立ち上がって、自販機でサイダーを買う。すぐさま蓋を開けて二口飲み込んだ。
とりあえず、戻ってマリンの様子を見よう。もうやめたいと言われたら、きちんと説明する。よしっと太ももを叩いてから、部屋へと向かう。
部屋に戻れば、マリンは先ほどのダンスの曲を踊りながら歌っていた。やめる気はないと受け取って、俺もペットボトルを置いて隣で踊り始める。
マリンが一瞬驚いた顔をして、こちらを向いた。にししといつもの笑顔を見せて、続ける。曲が終われば、マリンはおしぼりで汗を拭う。
「ソウくんも、結構踊れるようになってきたんじゃない?」
「本当?」
「うんうん、本当! うまい、とは、言い難いけど」
素直な言葉に、プッと笑い声を出してしまった。自分でも、うまく踊れるとは思っていない。それでも、慌てたように眉毛を下ろして、言い訳のように褒めるマリンが可愛くて、面白くなってしまった。
「いや、下手とかじゃなくてね! 元気がふつふつ、湧いてますよー! みたいな踊りでいいと思う! 私は、いいと思う、よ。クラゲのダンスみたいだし!」
独特な表現に、心が落ち着く。マリンは、まだ俺と、カップルチャンネルを続けてくれる。その嬉しさと、マリンの気の遣った言葉に、唇が勝手に緩んでいた。