豚丼の方はと言えば、豚肉が炭で焼かれていて、テラテラと光を放っている。試しに口に入れば、醤油の香りと脂の甘みが広かった。
 ガツガツ食べたい気持ちを押さえて、漬物やサラダも食べ進める。撮影してるのに、かきこんだら台無しだ。

 サラダはさっぱりとして、何度も舌を新鮮にさせる。タレの染み込んだごはんも、ごはんだけで、ごはんを食べられそうなくらいだ。

 二人して黙り込んで、あっという間に食べ切ってしまった。豚汁は小鍋に入っていたからよそうたびに、熱々だったし。ごはんは、たっぷり大満足な量入っていた。

 お腹が、パンパンではち切れそう。落ち着かせるように、撫でていれば隣のマリンが録画を切る。そして、ソファに倒れ込む。

「もう食べられない……」
「意外に量あったよな」
「ほんと……ソフトクリームも食べるつもりだったのに」
「やめとくか?」
「食べるけどね!」

 そういえば、今日はマリンの独特な感想を聞いていない。どんな感想を言うだろうか、想像してみる。まぁ、俺の感性じゃ、普通のしか思いつかないけど。

「真冬に食べたら、もっとおいしそう」
 
 マリンの方を向けば、にへらと幸せそうな表情をしてる。俺も思った、と言いかけて、冬にはマリンがここに居ないことが頭に浮かぶ。俺が一緒に過ごせるのは、夏休み中だけの短い時間だ。
 
 体の中心が、きゅうと痛んだのを無視する。そして、マリンの横で俺もソファに体を預けた。

「おいしくて、しあわせー」

 猫みたいに、ぐーっと伸びてふふふと笑う。恐怖は、少し緩んだらしい。一安心していれば、マリンは「あ!」と言ってから、顔を上げた。

「私の声って、ボイスチェンジャー使ってても、わかる?」

 唐突な質問に、驚きながらも、思い返す。ボイスチェンジャーを使っている声も、今の声も、めちゃくちゃ違うとは思えない。ただ、同じ声かと言われれば違う。

「十六種類くらいに人間の声を分類したら、一緒、くらい?」
「答え方、独特すぎない?」

 マリンには言われたくない。一緒に過ごしてるうちに、変な答え方が移ってきたのか? 想像してみて、まるで本当のカップルみたいで恥ずかしくなってきた。