このコメントを投稿したのはどうやら有名なインフルエンサーらしいが、だから「いいね」をたくさんもらえているわけではないだろう。それだけ絢乃さんが世間から受け入れられたのだと僕は解釈することにした。
 もちろん好意的なコメントばかりが寄せられたわけではなく、中には批判的な書き込みもいくつか目についたが、この賛否両論さえ彼女は想定していたはずで、それも覚悟の上だったのだからこれは当然の結果と言えた。
 そんな中でひと際目を引いたのがこのコメントというのは、僕たちにとって上々の滑り出しだと言っていいだろう。

「――これって最上の褒め言葉ですよね、会長」

「うん、嬉しいよね。――あ、コーヒーありがとう。いただきます。……わぁ、いい薫り!」

 絢乃さんは僕の淹れて差し上げたカフェオレを美味しそうにすすり始めた。とりあえず、喜んで頂けたようで何よりだ。

「ところで会長、午後からさっそく取材が数件入っておりますが。その前に昼食はどうされます?」

 僕が質問すると、彼女はカップを両手で抱えるようにして持ったまま天を仰いだ。

「…………実はなんにも決めてないんだよね。わたしは桐島さんと一緒に社員食堂で食べたいけど、ママが戻ってきてから相談しようか」

「かしこまりました。では、午後からも頑張りましょうね」

「うん!」

 やる気満々で頷いた彼女を、僕はものすごく可愛いなと思った。二人きりでいる時は、彼女の可愛さを独占できる。それは会長秘書としての特権かもしれない。

 ――こうしてこの日、僕のオフィスラブは本格的に幕を開けたのだが。それは同時に、僕の苦悩と悶絶の日々のスタートでもあった――。