真珠色の長いストレートの髪を垂らし、思色の柔らかい瞳を宿す乙女がいる。乙女はベッドの横に座り、誰かの手を握っていた。
「今日ね、初めてお腹の子がお腹を蹴ったんです。貴方にも分かりますか?」
乙女はその手を自分の丸いお腹に置く。
「貴方に似て本が好きなのかしら。……ねぇ、聖さん?早く……起きてくれないかしら……」
乙女が握っているのは番である旦那の手。ここは彼の病床で、今昏睡状態である。
二人の出会いは三年前にも遡る。聖は純華と呼ばれていた乙女が一八歳になり女王になった時、番として来た。当時、二〇の彼は物腰柔らかで心優しい男性だった。純華も瞬く間に彼に心を許し、仲睦まじくやっていた。
そんな「世界」が壊れたのは突然だった。
『たくさん買えましたね、純華さん。』
『そうですね。うふふ、早く生まれてこないかしら。』
その時には純華の腹には二人の子がいた。その子のために、二人はお忍びで街へ出かけ玩具や用品を買い揃えていた。
『体調は大丈夫ですか?』
『大丈夫ですよ。でも、メイド達ったらやっぱりおかしいです。我が子のためのものは自分の目で見て買わないと。「特注品を」なんて、もう、!』
『はははっ!ほんと、貴女は良い母親になりそうですね。』
聖は純華の頭をそっと撫でる。
『もう……///!私は貴方の妹じゃないです///!』
『す、すみません……』
聖には地球に妹がおり、可愛がっていたこともあり、よく純華に重ねていた。
『もう少しで馬車ですからね。』
『聖さんだって荷物重いでしょうに。』
遠くから蹄鉄がタイルを蹴る音が聞こえる。
(近くまで来てくれるかしら?)
どんどん音が近くなってくるが、思ってるよりも音が速い。曲がり角を曲がってこちらに向かってくる。
(これ、宮廷の馬車じゃないわ……!)
『危ない!!どいてどいて!!』
制御が効かない暴れ馬に御者も慌てている。馬は純華に一直線だ。
(っ…………!!)
『純華さん!』
目をぎゅっと瞑り腹を庇って強ばる体を押される。バランスを崩し転んだが、馬とぶつかった衝撃はない。
『おい!お兄さん!しっかり!しっかり!!』
先程の御者の声にゆっくり目を開ける。初めに見えるのは、純華の足元まで広がる血溜まりだった。
『ひ、じり……さん……?』
恐る恐る血溜まりを辿って顔をあげると、視線の先には聖がいる。純華を庇って馬と衝突したのだ。タイルに強く頭を打ったのか、だんだん広がっていく血溜まり。意識はなく、体はどこまでも力ない。
『聖さん!聖さん!!お願い!!目を覚まして!!聖さん!!聖さん!!!』
街灯や店に火が灯り、星が降る夜のことだった。
不幸中の幸いと言うべきか、病院にすぐ運ばれ聖は一命を取りとめたが、虚しくも彼にもう朝は来ない。
次の日もその次の日も純華は呪われているかのように病室に通い聖に話しかけている。
「おはようございます、聖さん。」
彼の「おはようございます」は聞けない。
「貴方のおかげでこの子も健康に育ってますよ。もう少しで臨月だなんて、早いですね。」
時が戻れば、なんて思いながら聖の手を握る。純華は、檻に閉じ込めてでも彼の回復を願った。
「この子、貴方が好きな歌を歌うと元気にお腹を蹴るんですよ。」
そう言って純華は歌を歌い出した。聖がよく口ずさんでいたバラード曲だ。彼の毛布のように柔らかい低い声と純華の鈴の音のように美しい高い声がハーモニーを奏で、とても美しいメロディを織り成していた。それも今や一つだけだ。どうか気づいてくれ、どうか、どうか……と言わんばかりに歌う。
「聖さん……聖さん……!」
自然と流れる涙が動かぬ手の甲に零れる。
「私は……また、貴方と……この子とあの街を歩きたいのです……貴方の暖かい手で……私の手を握って……この子を抱いて……また……いつか……」
空は暗く曇って雨が降り出した。まるで、空の青さを忘れてしまったように……
「陛下、どうかご安静になさってください……!」
「でも、聖さんに会いたいの。お願い。」
「お気持ちはお察ししますが、今はご安産のためにもご安静になさってください。」
臨月になり、いつ陣痛が来てもおかしくない状態でも純華は聖の見舞いをやめようとしない。それはもしかしたら自己防衛の一種なのかもしれない。
「聖さん……」
宮廷医曰く事故の衝撃で精神疾患を患っている可能性が高いという。彼女を思い逆に意見に反対すれば、精神的にも身体的にも影響が出るかもしれない。
「分かりました。ですが、異変を感じたらすぐ呼んでくださいね?!」
「っ……!?本当?ありがとう……!」
彼女は浮足立って聖の元へ向かった。
「聖さん、今日で予定日二日前になりましたよ。お腹もこんなに大きくなったんです。」
彼の手を取ってお腹に置く。腹を蹴る胎児に聖は一向に反応しない。
「聖さん……ごめんなさい。私があの時出かけたいなんて言わなければ……動けていれば……聖さんはこんな……ごめんなさい。」
純華は後悔していた。時が戻ればと何度も願った。どうしても生きてほしくて、自分の隣にいて欲しくて、たまらない。それなのに、ほんの少し、本当に少しだけ、もう諦めていた。
彼との思い出の歌を無意識に口ずさむ。涙が溢れ、震える声で上手く歌えなくても歌ってしまうのは、彼のためだけではない。
(歌っていないと……聖さんが……どこか……遠くに……)
純華の精神安定剤だった。
「聖さん…………っ、うぅっ……!」
急に腹が傷んで前かがみになる。
「陛下……!」
「痛い……うっ……はぁ……はぁ……」
たまたま廊下を通ったメイドが純華の異変に気づき皆に知らせた。そう、紛れもない陣痛だ。
「聖様、旦那様のお子様がお生まれになりますよ。ですから……どうか……どうか……お目覚めになってください……」
メイドの一人が純華の言葉を代弁した。聖は眠ったままだった。
陣痛が始まってから二〇時間、純華は元気な娘を産んだ。少々難産であったが、母子ともに健康だ。
「あぁ……粋花……私と……あの人の……愛しい……娘……」
娘の名前は聖と事前に「粋花」と決めていた。
体調が安定すると純華は粋花を抱いて聖の元へ行った。純華譲りの真珠色の髪と聖譲りの紅梅色の瞳の娘。聖の横に寝かせるとよく似ているのがわかる。
「聖さん。粋花、貴方の娘ですよ。目元のあたり、貴方にそっくりなのよ。ねぇ……聖さん……聖……さん……お願い……」
純華は胸に手を置いて泣き始める。純華の涙がシーツの色を濃くする。
「あぃっ!うぅ!うぅ!」
粋花が手足をバタバタと動かし、聖の腹や頬にぶつかる。
「あっ、!ごめんなさいね、聖さん。もう粋花、お父さんにぶつけちゃダメよ?」
「……んっ…………」
「えっ……?」
粋花を抱き上げると、しきりに聖の元に行きたがった。目を向けると声一つと皺の寄る眉間がある。
「聖さん……?聖さん……!聖さん!!」
ピクピクと瞼が動き、ゆっくりと開く。
「……す……みか……さん……」
「聖さん……!!」
力なく震える彼の手が純華の頬に触れる。
「こ……なに……な……いて…………」
「ひじり……さん……わたし……わたし…………!」
聖の手が腕の中の粋花の頭へ向かう。
「かわい……らしい……ですね……すみか……さん……ただいま……かえり……ました……」
濃い桃色の瞳から一粒、露が流れた。
「おかえり……なさい……!おかえりなさい……!」
廊下のメイド達も心の底から安心した。
「可愛らしいですね。純華さんに似て美人さんです。」
目覚めて二ヶ月もすると聖もだいぶ回復した。残念ながら事故の影響で下半身麻痺が出てしまったが、毎日懸命にリハビリしている。
「えぇ?聖さん似の美人さんですよ?ほら、目元のあたりがそっくりです。」
「でも、このぷにぷにほっぺは純華さんと一緒です。」
人差し指で純華と粋華の頬を突く。粋華は可愛らしく笑ったが、純華はどこか怪訝な顔をした。
「またからかってますね……?」
「まさか。もちもちのぷにぷにほっぺです。食べちゃいたいくらい可愛い。」
「何も嬉しくないです……///!」
粋華がふと聖の指を握った。
「なんだい粋華?パパと遊びたいのか?」
うぅ〜うぅ〜と喃語を喋る粋華。聖は寝転び、粋華を自分の腹の上に乗せた。
「僕の百合の女王様たちは可愛いなぁ。」
「な……///!またそうやって///!」
「当たり前じゃないですか。毎日毎日飽きずに外れの部屋まで来て、歌を歌ってくれる貴女がたまらなく愛おしいです。」
純華は驚きを隠せなかった。
「な、で……それを……知って……」
「昏睡状態でも外の声が聞こえる時があるんです。時々貴女の歌が聞こえて、その度に僕は呼び戻された。死にゆく僕を貴女の歌が引き止めてくれたんです。」
何度魂がこの体から抜かれそうになったか。その度に純華の歌声と泣き声で魂と体を繋いだ。
聖はその歌を歌った。男女で歌うバラード、聖と純華の思い出の曲だ。
「春になる頃には外出も許可されるみたいです。そうしたら三人で散歩でもしましょうね。」
「ピクニックするのもいいですね。うふふ、楽しみになってきました。」
純華にも自然な笑顔が戻ってきた。
初夏になり、あたりは葉が青々しく生い茂るようになる頃、百合の開花式があった。
「粋華は私が責任を持って見てますから、純華さんは安心して式に望んでくださいね。」
「ありがとうございます、聖さん。」
白百合の色のAラインドレスを身にまとう純華はなんとも神秘的だ。艶のある髪の先を少し巻いて垂らし、彼女を着飾る装飾品はどれもか神々しい。聖は車椅子を動かし、椅子に座る純華へ近寄る。
「とても素敵ですよ、純華さん。貴女のような素敵な女性の番になれたこと、とても誇りに思います。」
「聖さん……私こそ貴方が番、いいえ夫でとても幸せです。」
聖が番として純華の元へ来て早五年。二人は新たな人生を歩む。女王の腕の中で健やかに眠る幼い女王と共に。
その年、各地で百合は例年以上の花が咲き誇った。
「今日ね、初めてお腹の子がお腹を蹴ったんです。貴方にも分かりますか?」
乙女はその手を自分の丸いお腹に置く。
「貴方に似て本が好きなのかしら。……ねぇ、聖さん?早く……起きてくれないかしら……」
乙女が握っているのは番である旦那の手。ここは彼の病床で、今昏睡状態である。
二人の出会いは三年前にも遡る。聖は純華と呼ばれていた乙女が一八歳になり女王になった時、番として来た。当時、二〇の彼は物腰柔らかで心優しい男性だった。純華も瞬く間に彼に心を許し、仲睦まじくやっていた。
そんな「世界」が壊れたのは突然だった。
『たくさん買えましたね、純華さん。』
『そうですね。うふふ、早く生まれてこないかしら。』
その時には純華の腹には二人の子がいた。その子のために、二人はお忍びで街へ出かけ玩具や用品を買い揃えていた。
『体調は大丈夫ですか?』
『大丈夫ですよ。でも、メイド達ったらやっぱりおかしいです。我が子のためのものは自分の目で見て買わないと。「特注品を」なんて、もう、!』
『はははっ!ほんと、貴女は良い母親になりそうですね。』
聖は純華の頭をそっと撫でる。
『もう……///!私は貴方の妹じゃないです///!』
『す、すみません……』
聖には地球に妹がおり、可愛がっていたこともあり、よく純華に重ねていた。
『もう少しで馬車ですからね。』
『聖さんだって荷物重いでしょうに。』
遠くから蹄鉄がタイルを蹴る音が聞こえる。
(近くまで来てくれるかしら?)
どんどん音が近くなってくるが、思ってるよりも音が速い。曲がり角を曲がってこちらに向かってくる。
(これ、宮廷の馬車じゃないわ……!)
『危ない!!どいてどいて!!』
制御が効かない暴れ馬に御者も慌てている。馬は純華に一直線だ。
(っ…………!!)
『純華さん!』
目をぎゅっと瞑り腹を庇って強ばる体を押される。バランスを崩し転んだが、馬とぶつかった衝撃はない。
『おい!お兄さん!しっかり!しっかり!!』
先程の御者の声にゆっくり目を開ける。初めに見えるのは、純華の足元まで広がる血溜まりだった。
『ひ、じり……さん……?』
恐る恐る血溜まりを辿って顔をあげると、視線の先には聖がいる。純華を庇って馬と衝突したのだ。タイルに強く頭を打ったのか、だんだん広がっていく血溜まり。意識はなく、体はどこまでも力ない。
『聖さん!聖さん!!お願い!!目を覚まして!!聖さん!!聖さん!!!』
街灯や店に火が灯り、星が降る夜のことだった。
不幸中の幸いと言うべきか、病院にすぐ運ばれ聖は一命を取りとめたが、虚しくも彼にもう朝は来ない。
次の日もその次の日も純華は呪われているかのように病室に通い聖に話しかけている。
「おはようございます、聖さん。」
彼の「おはようございます」は聞けない。
「貴方のおかげでこの子も健康に育ってますよ。もう少しで臨月だなんて、早いですね。」
時が戻れば、なんて思いながら聖の手を握る。純華は、檻に閉じ込めてでも彼の回復を願った。
「この子、貴方が好きな歌を歌うと元気にお腹を蹴るんですよ。」
そう言って純華は歌を歌い出した。聖がよく口ずさんでいたバラード曲だ。彼の毛布のように柔らかい低い声と純華の鈴の音のように美しい高い声がハーモニーを奏で、とても美しいメロディを織り成していた。それも今や一つだけだ。どうか気づいてくれ、どうか、どうか……と言わんばかりに歌う。
「聖さん……聖さん……!」
自然と流れる涙が動かぬ手の甲に零れる。
「私は……また、貴方と……この子とあの街を歩きたいのです……貴方の暖かい手で……私の手を握って……この子を抱いて……また……いつか……」
空は暗く曇って雨が降り出した。まるで、空の青さを忘れてしまったように……
「陛下、どうかご安静になさってください……!」
「でも、聖さんに会いたいの。お願い。」
「お気持ちはお察ししますが、今はご安産のためにもご安静になさってください。」
臨月になり、いつ陣痛が来てもおかしくない状態でも純華は聖の見舞いをやめようとしない。それはもしかしたら自己防衛の一種なのかもしれない。
「聖さん……」
宮廷医曰く事故の衝撃で精神疾患を患っている可能性が高いという。彼女を思い逆に意見に反対すれば、精神的にも身体的にも影響が出るかもしれない。
「分かりました。ですが、異変を感じたらすぐ呼んでくださいね?!」
「っ……!?本当?ありがとう……!」
彼女は浮足立って聖の元へ向かった。
「聖さん、今日で予定日二日前になりましたよ。お腹もこんなに大きくなったんです。」
彼の手を取ってお腹に置く。腹を蹴る胎児に聖は一向に反応しない。
「聖さん……ごめんなさい。私があの時出かけたいなんて言わなければ……動けていれば……聖さんはこんな……ごめんなさい。」
純華は後悔していた。時が戻ればと何度も願った。どうしても生きてほしくて、自分の隣にいて欲しくて、たまらない。それなのに、ほんの少し、本当に少しだけ、もう諦めていた。
彼との思い出の歌を無意識に口ずさむ。涙が溢れ、震える声で上手く歌えなくても歌ってしまうのは、彼のためだけではない。
(歌っていないと……聖さんが……どこか……遠くに……)
純華の精神安定剤だった。
「聖さん…………っ、うぅっ……!」
急に腹が傷んで前かがみになる。
「陛下……!」
「痛い……うっ……はぁ……はぁ……」
たまたま廊下を通ったメイドが純華の異変に気づき皆に知らせた。そう、紛れもない陣痛だ。
「聖様、旦那様のお子様がお生まれになりますよ。ですから……どうか……どうか……お目覚めになってください……」
メイドの一人が純華の言葉を代弁した。聖は眠ったままだった。
陣痛が始まってから二〇時間、純華は元気な娘を産んだ。少々難産であったが、母子ともに健康だ。
「あぁ……粋花……私と……あの人の……愛しい……娘……」
娘の名前は聖と事前に「粋花」と決めていた。
体調が安定すると純華は粋花を抱いて聖の元へ行った。純華譲りの真珠色の髪と聖譲りの紅梅色の瞳の娘。聖の横に寝かせるとよく似ているのがわかる。
「聖さん。粋花、貴方の娘ですよ。目元のあたり、貴方にそっくりなのよ。ねぇ……聖さん……聖……さん……お願い……」
純華は胸に手を置いて泣き始める。純華の涙がシーツの色を濃くする。
「あぃっ!うぅ!うぅ!」
粋花が手足をバタバタと動かし、聖の腹や頬にぶつかる。
「あっ、!ごめんなさいね、聖さん。もう粋花、お父さんにぶつけちゃダメよ?」
「……んっ…………」
「えっ……?」
粋花を抱き上げると、しきりに聖の元に行きたがった。目を向けると声一つと皺の寄る眉間がある。
「聖さん……?聖さん……!聖さん!!」
ピクピクと瞼が動き、ゆっくりと開く。
「……す……みか……さん……」
「聖さん……!!」
力なく震える彼の手が純華の頬に触れる。
「こ……なに……な……いて…………」
「ひじり……さん……わたし……わたし…………!」
聖の手が腕の中の粋花の頭へ向かう。
「かわい……らしい……ですね……すみか……さん……ただいま……かえり……ました……」
濃い桃色の瞳から一粒、露が流れた。
「おかえり……なさい……!おかえりなさい……!」
廊下のメイド達も心の底から安心した。
「可愛らしいですね。純華さんに似て美人さんです。」
目覚めて二ヶ月もすると聖もだいぶ回復した。残念ながら事故の影響で下半身麻痺が出てしまったが、毎日懸命にリハビリしている。
「えぇ?聖さん似の美人さんですよ?ほら、目元のあたりがそっくりです。」
「でも、このぷにぷにほっぺは純華さんと一緒です。」
人差し指で純華と粋華の頬を突く。粋華は可愛らしく笑ったが、純華はどこか怪訝な顔をした。
「またからかってますね……?」
「まさか。もちもちのぷにぷにほっぺです。食べちゃいたいくらい可愛い。」
「何も嬉しくないです……///!」
粋華がふと聖の指を握った。
「なんだい粋華?パパと遊びたいのか?」
うぅ〜うぅ〜と喃語を喋る粋華。聖は寝転び、粋華を自分の腹の上に乗せた。
「僕の百合の女王様たちは可愛いなぁ。」
「な……///!またそうやって///!」
「当たり前じゃないですか。毎日毎日飽きずに外れの部屋まで来て、歌を歌ってくれる貴女がたまらなく愛おしいです。」
純華は驚きを隠せなかった。
「な、で……それを……知って……」
「昏睡状態でも外の声が聞こえる時があるんです。時々貴女の歌が聞こえて、その度に僕は呼び戻された。死にゆく僕を貴女の歌が引き止めてくれたんです。」
何度魂がこの体から抜かれそうになったか。その度に純華の歌声と泣き声で魂と体を繋いだ。
聖はその歌を歌った。男女で歌うバラード、聖と純華の思い出の曲だ。
「春になる頃には外出も許可されるみたいです。そうしたら三人で散歩でもしましょうね。」
「ピクニックするのもいいですね。うふふ、楽しみになってきました。」
純華にも自然な笑顔が戻ってきた。
初夏になり、あたりは葉が青々しく生い茂るようになる頃、百合の開花式があった。
「粋華は私が責任を持って見てますから、純華さんは安心して式に望んでくださいね。」
「ありがとうございます、聖さん。」
白百合の色のAラインドレスを身にまとう純華はなんとも神秘的だ。艶のある髪の先を少し巻いて垂らし、彼女を着飾る装飾品はどれもか神々しい。聖は車椅子を動かし、椅子に座る純華へ近寄る。
「とても素敵ですよ、純華さん。貴女のような素敵な女性の番になれたこと、とても誇りに思います。」
「聖さん……私こそ貴方が番、いいえ夫でとても幸せです。」
聖が番として純華の元へ来て早五年。二人は新たな人生を歩む。女王の腕の中で健やかに眠る幼い女王と共に。
その年、各地で百合は例年以上の花が咲き誇った。



