「かぶりネコオムライスと、にゃんコーラの方〜」

 小さく手を挙げた高嶺の前に、ライスで猫を型取り、卵で被り物をしているように見えるオムライスと、クリームと猫型クッキーがトッピングされたコーラが置かれる。

 俺の前には、キャラクターのイラストが描かれた旗のついた大人お子様ランチと、猫モチーフのスプーンつきの紅茶が並んだ。

(これは確かに可愛いかも)

 食べたらなくなってしまう刹那的なものであることは残念だが、これを前にした女性たちが、きゃっきゃと嬉しそうに写真を撮る気持ちは分からなくもない。

「高嶺は写真撮らなくていいの?」

 ふと高嶺の方を見ると、幼い子どものようにキラキラした顔で、運ばれてきたコラボメニューを見つめているではないか。

「えっ、ああ。そうだな」

 高嶺は慌ててスマホを取り出し、写真を撮り始める。俺が頼んだ分まで、熱心に撮影していた。

(うーん、俺的にはコラボメニューより、高嶺のギャップの方が可愛いかもしれない)

 普段の、大人びていてバチバチにカッコいい姿も良いと思うけれど、俺は好きなものを前にしてテンションが上がっている高嶺にぐっとくる。

 本人は気にしているようだが、女子もこういうギャップには弱いのではないだろうか。

(高嶺の好きな子もきっと……)

 胸がモヤっとする。

 高嶺に彼女ができたら、学校での秘密の時間も、こうして遊びに出かけることもなくなるかもしれない。

(それは……何か嫌だな)

 周りの目が気になるというだけで、高嶺と過ごす時間は楽しくて、ふわふわした心地になる。
 ずっとこんな関係が続いていけばいいのに、と思ってしまう。

(女子はいいな。可愛くて、たぶん柔らかくていい匂いがして、男の俺では絶対敵わない……って俺は何でこんなこと考えてんだ!?)

 これではまるで、高嶺のことが好きみたいだ。

「のの?」

 名前を呼ばれてハッとする。
 一人動揺する俺を不審に思ったのか、高嶺は小首を傾げていた。

「えっ? ああ、ごめん、考えごとしてた」

 俺は誤魔化すように笑って、大人お子様ランチに手をつける。

「リーンの箱庭も、こういうイベントやってくれればいいのになぁ」
「そしたら他のギルメンも誘ってオフ会したいよな」
「ギルマスとか絶対、北海道から飛んでくるよ」

 高嶺と話を続ける間も、頭の中には『好き』の文字が疑問符付きで舞っていた。