高嶺と『学校でこっそり会う』『二人で遊びに行く』という約束をしてからというもの、SNSに時折連絡が入るようになった。

 頻度は多くて週に一、二回。用件なしに、写真が送られてくるだけの時もある。

 彼は『たまに』という約束を律儀に守ってくれているらしいが、俺はいつの間にか連絡が待ち遠しく感じるようになっていた。

 昼休みにこっそり会おうという連絡は大体、サッカー部の朝練終わりに飛んでくる。

 俺は教室の隅、カーテンに隠れるようにして友人二人とアニメの最新話について語りながら、ちらちら窓の外を窺った。

 間もなく朝練が終わる時間だろう。
 予想通り、挨拶を終えたサッカー部員たちは、一年に片付けを任せて引き揚げ始める。

 遠くから見ていても高嶺は目立つ。

 彼は群衆を抜け、校舎下の手洗い場までやって来た。どうやら部室に戻る前に、水を飲みたかったらしい。

 水を飲み、顔を洗った高嶺はふっと顔を上げた。
 思いもよらず、二階の教室から見下ろす俺とバチっと目が遭ってしまう。
 
 こちらに気づいた高嶺は、にっと笑って手を振った。

 その瞬間、サッカー部の練習風景を熱心に眺めていたクラスの女子たちが、「ぎゃっ」と叫び声を上げる。

「今、柊が私に手を振った!!」
「妄想乙」
「本当だって!」

 女子たちが楽しそうに騒いでいる横で、俺は少しだけ優越感に浸る。
 きっとこの後、『今日、昼休みに会わない?』と連絡が来るだろう。確証はないが、そんな気がする。

「えー、でも高嶺って好きな子いるんでしょ」
「マ!? どこ情報!?」
「二組の松井香織がそう言って振られたって」
「断り文句だと信じたい……私のものにならなくていいから、誰のものにもならないでほしい」

 先程まで手を振られたと言って喜んでいた女子が、眉間に指を押し当て天を仰ぐ。
 オーバーリアクションで面白い子だなと思いつつ、俺はそれよりも別のことが気になった。

(へー。高嶺、好きな子いるんだ)

 健全な男子高校生なら、それくらい普通だろう。俺だって二次元には推しがいる。

 そんなことを考えていると、スマホの画面が光って通知のポップが現れた。
 俺は慌てて中身を確認する。

 送り主は想像通り高嶺だ。
 しかし、内容は思っていたものと違った。

『あのさ。再来週末、部活休みなんだけどコラボカフェ行かない?』
『いいよ』

 何のコラボカフェかも知らないのに返事を打つ。
 すぐに既読のマークがついたが、それからしばらく返事が送られてくる気配がない。

 俺は思い切って、メッセージを加えた。

『今日の昼、その話をしようよ』