そんなことがあって、話は冒頭に戻る。
 二人で出かけた時は想像以上に楽しかったけれど、学校ではそうもいかない。

 クラスイチ――いや、学校イチのイケメンと、隠キャが仲良く話をするなんて無理だ。周りの目が気になって仕方ない。

「顔、出さないの?」

 高嶺は何の前触れもなく、ぼんやりしていた俺の額に手を当て、顔の半分を覆う前髪を掻き上げた。

「ぎゃっ!!」

 至近距離で顔を覗き込まれ、動揺した俺は逃れようとして尻餅をつく。

「悪い。この前の髪型が良かったからつい」

 高嶺は平然と言ってのける。

(陽キャの距離感恐ろしすぎる……ここは外国か!)

 そういえば、高嶺は帰国子女だった。
 海外ではこのくらいのスキンシップが普通なのかもしれないが、日本でこんなことをするのは二次元の、それも少女漫画のヒーローくらいだろう。
 
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃ、ない」

 高嶺は手を差し伸べてくれたが、何故か無性に恥ずかしく、俺はそれを無視して立ち上がった。

「高嶺は自分のかっこ良さ、もっと自覚しろよ。俺とは住んでる次元が違うの。急に近づかれたらびびるし、逆に俺はブスすぎてドアップに耐えられない」

 俺は動揺したまま、わーっと早口に言う。

「見た目のことはよく言われるけど……俺は普通のDKだよ。知ってるだろ。それにののはブスじゃない」

 高嶺は視線をふいと逸らし、「むしろ可愛いというか。女々しいわけじゃなくて、勿論男として見てるけど」とごにょごにょ付け加える。

(……このイケメンは何を言ってるんだ)

 高嶺がうっすら頰を染めているのに気づき、俺も視線を逸らす。顔が火照って仕方ない。

(でも……)

 男にしては可愛らしい容姿にコンプレックスがあるはずなのに、高嶺に可愛いと言ってもらえるのは不思議と嬉しかった。

「うん、なんかありがと。でも俺、学校では目立ちたくなくて」
「分かった。じゃあSNS教えて。そっちで声かけるから、時々こうして会ってくれたら嬉しい。あと、また二人で遊びに行きたい」

 高嶺が真剣な表情で言うので、俺は心の内で「仕方ないな」と唱えながら頷く。

「分かった。たまに、だからな」