オフ会当日。俺は三十分前に待ち合わせ場所の改札前に着き、ゲームをしながらソワソワと天丼さんの到着を待っていた。
この日のために服を買った。
お洒落なブランド品ではなく、量販店のパーカーだけど。珍しく服が欲しいと言ったので、親は喜んでお金を出してくれた。
いつも顔の半分近くを覆っている前髪は、ワックスで整えられている。
ギルドのメンバーと遊びに行くと聞いた姉が、そのままでは相手に失礼だと言ってやってくれたのだ。美容師の卵だけあって、なかなか悪くない仕上がりだと思う。
格安天丼『もうすぐ着く。黒のTシャツに、グレーのジーパン。ロコロぬい持ってる』
緊張していたはずなのに、チャットを見た俺はふっと笑ってしまう。
(天丼さん、また変な名前にしてる)
格安天丼って何だよというツッコミを心の中で入れながら、急いで返事を打つ。
ののえる『もう着いてるよ。東改札前の柱にいる。グレーのパーカーに、五周年記念トート』
見つけやすいようにトートバッグのイラスト面を体の前に下げ、俺は辺りをキョロキョロ見回した。
ロコロとは、リーンの箱庭に出てくる魔獣だ。可愛らしい見た目で、マスコットキャラとして愛されている。
グッズとなると、よほどコアなファンしか持っていないので、人混みの中からでも見つけるのは容易と思われたが、しかし――。
(げっ。高嶺!?)
天丼さんを見つける前に、クラスメイトを見つけてしまった。
長身なうえ、道行く人間が「俳優か何か?」と関心を向けているので余計に目立つ。相変わらず、眩しすぎるくらいのイケメンだ。
(どうしてここに高嶺が? 家こっちなんだっけ……)
興味本位で観察していると、視線が合った。彼はこちらに向かってずんずん歩いてくる。
(えっ!? ……どういうこと???)
よく見ると、高嶺は手に可愛らしい魔獣のぬいぐるみを持っていた。
黒のTシャツにグレーのジーパン。シンプルだが高嶺が着ると、着ている本人のかっこ良さが際立つ。制服姿よりも大人っぽく見えた。
「ののえる、さん?」
「こ、こ、こ、こんにちは。もしかして、天丼さんですか?」
動揺と緊張のあまり、声をかけられた俺はニワトリみたいな返事をしてしまう。
「はい。会えて嬉しいです」
高嶺は目を細めて笑った。
教室ではあまり見たことのない、自然な表情に高鳴る鼓動が止まらない。
(かっこ可愛い……じゃない、落ち着け。向こうは一軍、片や三軍以下の俺。きっと認識されてないはず)
すー、はー、と深呼吸していると、高嶺はなんてことないかのように尋ねてくる。
「もしかして矢野?」
「え」
「矢野のえる。だからののえるか」
なるほど、納得した。みたいな顔をされても困る。
(何でバレたんだ!? いつも顔半分は隠してるのに!)
冷や汗がダラダラ背中を伝う。
そのユーザー名は姉がつけたのであって俺の趣味じゃない、とか。ロコロぬいを鷲掴みにして待ち合わせに持ってくる奴があるか、とか。
どうでもいいことばかりが脳裏を駆け巡る。
「今日、いつもより可愛いな」
(へっ!?)
高嶺の口から発せられた言葉に、俺は益々動揺する。
「あー、男に可愛いって駄目か」
高嶺はぽりぽり後頭部を掻いてから言った。
「こんなところで突っ立って話すのもなんだし、移動しよう」
◇
この日のために服を買った。
お洒落なブランド品ではなく、量販店のパーカーだけど。珍しく服が欲しいと言ったので、親は喜んでお金を出してくれた。
いつも顔の半分近くを覆っている前髪は、ワックスで整えられている。
ギルドのメンバーと遊びに行くと聞いた姉が、そのままでは相手に失礼だと言ってやってくれたのだ。美容師の卵だけあって、なかなか悪くない仕上がりだと思う。
格安天丼『もうすぐ着く。黒のTシャツに、グレーのジーパン。ロコロぬい持ってる』
緊張していたはずなのに、チャットを見た俺はふっと笑ってしまう。
(天丼さん、また変な名前にしてる)
格安天丼って何だよというツッコミを心の中で入れながら、急いで返事を打つ。
ののえる『もう着いてるよ。東改札前の柱にいる。グレーのパーカーに、五周年記念トート』
見つけやすいようにトートバッグのイラスト面を体の前に下げ、俺は辺りをキョロキョロ見回した。
ロコロとは、リーンの箱庭に出てくる魔獣だ。可愛らしい見た目で、マスコットキャラとして愛されている。
グッズとなると、よほどコアなファンしか持っていないので、人混みの中からでも見つけるのは容易と思われたが、しかし――。
(げっ。高嶺!?)
天丼さんを見つける前に、クラスメイトを見つけてしまった。
長身なうえ、道行く人間が「俳優か何か?」と関心を向けているので余計に目立つ。相変わらず、眩しすぎるくらいのイケメンだ。
(どうしてここに高嶺が? 家こっちなんだっけ……)
興味本位で観察していると、視線が合った。彼はこちらに向かってずんずん歩いてくる。
(えっ!? ……どういうこと???)
よく見ると、高嶺は手に可愛らしい魔獣のぬいぐるみを持っていた。
黒のTシャツにグレーのジーパン。シンプルだが高嶺が着ると、着ている本人のかっこ良さが際立つ。制服姿よりも大人っぽく見えた。
「ののえる、さん?」
「こ、こ、こ、こんにちは。もしかして、天丼さんですか?」
動揺と緊張のあまり、声をかけられた俺はニワトリみたいな返事をしてしまう。
「はい。会えて嬉しいです」
高嶺は目を細めて笑った。
教室ではあまり見たことのない、自然な表情に高鳴る鼓動が止まらない。
(かっこ可愛い……じゃない、落ち着け。向こうは一軍、片や三軍以下の俺。きっと認識されてないはず)
すー、はー、と深呼吸していると、高嶺はなんてことないかのように尋ねてくる。
「もしかして矢野?」
「え」
「矢野のえる。だからののえるか」
なるほど、納得した。みたいな顔をされても困る。
(何でバレたんだ!? いつも顔半分は隠してるのに!)
冷や汗がダラダラ背中を伝う。
そのユーザー名は姉がつけたのであって俺の趣味じゃない、とか。ロコロぬいを鷲掴みにして待ち合わせに持ってくる奴があるか、とか。
どうでもいいことばかりが脳裏を駆け巡る。
「今日、いつもより可愛いな」
(へっ!?)
高嶺の口から発せられた言葉に、俺は益々動揺する。
「あー、男に可愛いって駄目か」
高嶺はぽりぽり後頭部を掻いてから言った。
「こんなところで突っ立って話すのもなんだし、移動しよう」
◇