リーンの箱庭――有名ではないけれど、ユーザー数はそこそこいるスマホアプリゲームだ。
基本的には可愛らしいアバターを操作して、ほのぼの小さな町を築いて暮らすゲームだが、バトルで経験値を貯めたり、ギルドのメンバーと協力してこなすイベントも用意されている。
姉に頼まれて始めてみたら、意外と楽しくて、ユーザー登録をしてから既に三年が経過していた。
姉はとっくの昔に飽きて辞めてしまったが、ギルドのメンバーと仲良くやっているので問題ない。
画面上部にピコン、と通知のマークが表示される。
(あれ? 個チャだ。珍しい)
毎晩恒例のギルドイベントが終わった後、ギルドのチャットではなく、個人チャットにメッセージが送られてきた。
送り主は天丼さん。『天丼食べたい』とか『正義の天丼』とか、ふざけてよく名前を変えるが、皆天丼さんと呼んでいる。
お互い同じくらいの時期にギルドに加入したこともあって、俺にとっては気さくに話すことのできるメンバーの一人だ。
天丼大盛り『ののさんの家って、もしかして三鷹駅周辺?』
メッセージを見て、俺はなんとなく伝えたいことを察した。ベッドに転がったまま、ドキドキしながら返事を打つ。
ののえる『そうだけど……もしかして家近い?』
天丼大盛り『最寄り一緒!』
返事は早かった。俺は思わず「うそ!?」と叫んで、慌ててチャットを返す。
ののえる『えっ、すご! 東京住みで歳近いことは知ってたけど、まさかご近所さんだとはw』
天丼大盛り『それな。すごい偶然』
ののえる『でも何で分かったの? もしかして……ス◯ーカー(´・ω・`)?』
天丼大盛り『なわけないだろw』
ギルドチャットで他のメンバーと、『駅前に新しいカフェができたけど陰キャには無理』という話をしていたのを見て、もしやと思ったらしい。
しばらく他愛のないチャットを続けた後、返信の間が空いた。
寝落ちたのだろうかと思い、自分もアプリを閉じようとしたところ、通知のマークがつく。
天丼大盛り『良かったら今度会わない?』
俺は一瞬返事を躊躇った。
人の目を見て話さなくても良いように前髪は伸ばしっぱなしだし、遊びに着ていく服がない。コミュ障なので、面と向かって上手く喋れるかも分からない。
けれど、ゲーム内では早三年の付き合いで、話も合う。きっと向こうも同じようなオタクだろう。
オフ会というものに憧れがあった俺は、思い切って返事をする。
ののえる『いいよ』
俺はスマホを放り、「わーっ」と言って枕を抱きしめた。
こうして、生まれて初めてゲームで知り合った人とオフ会の約束をしたのだった。
◇
基本的には可愛らしいアバターを操作して、ほのぼの小さな町を築いて暮らすゲームだが、バトルで経験値を貯めたり、ギルドのメンバーと協力してこなすイベントも用意されている。
姉に頼まれて始めてみたら、意外と楽しくて、ユーザー登録をしてから既に三年が経過していた。
姉はとっくの昔に飽きて辞めてしまったが、ギルドのメンバーと仲良くやっているので問題ない。
画面上部にピコン、と通知のマークが表示される。
(あれ? 個チャだ。珍しい)
毎晩恒例のギルドイベントが終わった後、ギルドのチャットではなく、個人チャットにメッセージが送られてきた。
送り主は天丼さん。『天丼食べたい』とか『正義の天丼』とか、ふざけてよく名前を変えるが、皆天丼さんと呼んでいる。
お互い同じくらいの時期にギルドに加入したこともあって、俺にとっては気さくに話すことのできるメンバーの一人だ。
天丼大盛り『ののさんの家って、もしかして三鷹駅周辺?』
メッセージを見て、俺はなんとなく伝えたいことを察した。ベッドに転がったまま、ドキドキしながら返事を打つ。
ののえる『そうだけど……もしかして家近い?』
天丼大盛り『最寄り一緒!』
返事は早かった。俺は思わず「うそ!?」と叫んで、慌ててチャットを返す。
ののえる『えっ、すご! 東京住みで歳近いことは知ってたけど、まさかご近所さんだとはw』
天丼大盛り『それな。すごい偶然』
ののえる『でも何で分かったの? もしかして……ス◯ーカー(´・ω・`)?』
天丼大盛り『なわけないだろw』
ギルドチャットで他のメンバーと、『駅前に新しいカフェができたけど陰キャには無理』という話をしていたのを見て、もしやと思ったらしい。
しばらく他愛のないチャットを続けた後、返信の間が空いた。
寝落ちたのだろうかと思い、自分もアプリを閉じようとしたところ、通知のマークがつく。
天丼大盛り『良かったら今度会わない?』
俺は一瞬返事を躊躇った。
人の目を見て話さなくても良いように前髪は伸ばしっぱなしだし、遊びに着ていく服がない。コミュ障なので、面と向かって上手く喋れるかも分からない。
けれど、ゲーム内では早三年の付き合いで、話も合う。きっと向こうも同じようなオタクだろう。
オフ会というものに憧れがあった俺は、思い切って返事をする。
ののえる『いいよ』
俺はスマホを放り、「わーっ」と言って枕を抱きしめた。
こうして、生まれて初めてゲームで知り合った人とオフ会の約束をしたのだった。
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