体育倉庫に入ると、高嶺は跳び箱の上に座ってスマホをいじりながら、焼きそばパンを食べていた。

 なんてことない男子高校生の昼休みの図だというのに、それを高嶺がすることで、映画のワンシーンのように思えるから不思議だ。

「のの、教室にいなかったから、先行ったのかと思った」

 高嶺は手を止めて、俺を見る。
 その顔が、彼を取り巻く女子たちに向けるものより柔らかい気がして、不意にドキッとした。

 高嶺の風貌は――今流行りの韓国アイドルみたいな感じ、とでも言えば良いだろうか。
 背がすらっと高く、鍛えられていて引き締まった体に、男らしく、されど芸術品のように美しい顔が載っている。

(化粧せずにこれだもんなぁ……)

 下手したら、最近姉がハマっているグループの、ビジュアル担当よりもかっこいいのではないだろうか。

 そんなことを考えながら、ぼーっと眺めていると、高嶺は跳び箱から下り、こちらに向かって歩いてくる。

「昼ごはんは食べた? まだなら購買ついてくよ」
「学校では話しかけるなって言ったはずだけど」

 ハッと我に返った俺は、近づいてくるイケメンに動揺して、ツンデレみたいな発言をしてしまう。

「ごめん。でも連絡先交換してなかったからさ。あの時間、ゲームのチャットは見ないだろうし」
「急に呼び出した要件は?」

 俺はじりじり後退りしながら尋ねる。

「二人きりで会いたくなった」

 高嶺はふっと笑みをこぼして言った。

(はい?)

 思考が停止する。俺はしばらくその場に固まって、数度瞬きを繰り返す。

「なんか、朝、顔見たら喋りたいって思ってさ」

 俺が女子なら、今この瞬間、目の前のこの男に惚れていただろう。
 それほど破壊力の高い一言だった。

(ぐぅ、眩しい。イケメンなら、なんでも許されると思うなよ!)

 平静を装ってなんとか言葉を絞り出す。

「別に、今までは学校で喋ることもなかったし……急に言われても……」
「そうだよな」

 眉尻を下げ、肩を落として残念がる高嶺に、心臓がぎゅっと握りつぶされたような心地になる。

 負けだ。光のイケメンに勝負を挑んだ俺がバカだった。

「五分だけ。それなら良いよ」

 そもそもどうしてこんなことになったのか。それを語るためには、少し時を戻す必要がある。