ray『いやっほーーーーい!! 今日は楽しむぞー!』
桜猫『私、rayちゃんと合流してから行くね』
ののえる『楽しみすぎる』
天丼(改)『俺もののえると行きます』
限界社畜シロウ『無念……楽しんできて……死』
ののえる『うわーーーーん、シロさん生きて!』
オフ会楽しみな豆『遅れるので先行っててください! 現地合流します』

 いつも昼間は過疎っているギルドのチャット欄が、コメントで埋まっていく。

 何故なら今日は、数か月前から楽しみにしていた『オフ会@リーンの箱庭コラボカフェ』なのだ。

 高嶺と付き合い始めてからそう経たないうちに、リリース五周年記念イベントとしてコラボカフェの開催が発表された。

 現在季節は春。俺と高嶺は進級し、クラスは離れてしまったけれど、前より教室を抜け出して会いやすくなった。

 一緒にいるところを見られても、「二年の時、同じクラスで文化祭準備で仲良くなった」と言えば、さほど不審に思われないから拍子抜けだ。

 前髪を切り、学校でも顔を出すようになったことで、前ほど陰気さが漂っていないことも理由かもしれない。

「なんか今更緊張してきた」

 新宿で乗り換えの電車を待っていた俺は、チャット欄を見ながら深呼吸する。
 ギルドの皆とは数年の付き合いだが、ボイスチャットすらしたことがない。

(rayさんはギャルっぽいし、豆さんは確かまだ高校生なんだよな……ちゃんと喋れるかな……)

 ぐるぐる考えていると、誰かがそっと俺の手を握る。
 高嶺だ。最寄駅で待ち合わせてここまで一緒に来たのだった。

「大丈夫だよ。俺もいるし」
「……そうだね。でも人前でベタベタするのはなしね」

 俺はふいっと顔を逸らす。

 いつもなら手も振り解いてしまうところだが、今日は一緒にいてもくっつけるタイミングがないので、電車が来るまではこのままでいようと思う。

「ののが可愛すぎて我慢できないかも」

 高嶺は嬉しそうに、眉尻を下げてふにゃりと微笑んだ。

 ピコンとチャットに新着メッセージが表示される。

屯田兵『着いた!! 早く!!』

 北海道から飛んできたギルドのマスターはどうやら、既に待ち合わせ場所に着いて、一人で暇らしい。

「屯田兵って……最早誰か分かんないじゃん」
「マスターと豆さんは、名前変えすぎでよく誰か分からなくなる」
「天丼さんのネーミングセンスも大分謎だけどな」

 二人はくすりと笑って、丁度プラットフォームに侵入してきた電車に乗った。

 それからしばらくして、rayさんと桜猫さんの二人がマスターと合流したとの連絡があり、池袋に着いた俺たちは待ち合わせ場所近くで三人の姿を探す。

「あれかな」
「そうっぽい」

 見た目も雰囲気もバラバラな女二人、男一人の集団に高嶺が物怖じすることなく声をかける。

「マスターとrayさん、桜猫さんですか? 天丼です」
「天丼さん!?!?!?」

 黒髪の大人っぽいお姉さんが、素っ頓狂な声を上げる。恐らく桜猫さんだ。

「えっ、えっ? アイドルだったんですか?」
「さくちゃん、そうかもだけど落ち着いて」

 ということは「落ち着いて」と言いつつ、同じように動揺している派手なピンク髪の人がrayさんで、オタク口調の友人によく似た雰囲気のおじさんがマスターだろう。

 高嶺の陰に隠れていた俺は、ドキドキしながら挨拶をする。

「はじめまして。ののえるです。恥ずかしいんで、ののって呼んでください」

 しばし、沈黙が流れた後、桜猫さんが放心状態で呟いた。

「……アイドルユニット?」

 いえ、恋人同士です。
 とは流石に言えなくて、俺と高嶺は顔を見合わせる。

 高嶺との始まりを思い出して、懐かしく思う。
 今日もきっと楽しい一日になるだろう。俺はそう確信した。