約束の文化祭二日目。この日は内部公開の一日目とは違い、外からも客が入る日だ。

 高嶺も俺も、クラスの手伝いは午前のシフトで、午後は一緒に文化祭を回ることができる。

 美しい吸血鬼に扮した高嶺は、この日も変わらず女子を侍らせていた。
 高嶺を見て頰を染める彼女たちの気持ちなら、分からなくもない。

 だって、何もしなくてもかっこいい高嶺が、コスプレのせいで何十倍も輝いて見える。
 実は本当に吸血鬼なんだ、と言われたら信じてしまいそうなほど、美しさが人離れしているのだ。

 一緒に回る約束をしておきながら、彼の傍に立つのが自分なんかで良いのかと、俺は怖気付いた。

「もしかして矢野くん?」
「は、はい」

 登校して早々、委員長に声をかけられた俺は心臓が止まりそうになる。

「えー!! やば、すごいイメチェン!」

 委員長の声を聞きつけた別の女子も、俺を見ていつもと違ったリアクションをする。

「矢野くんって、あの!? 肌白っ、目ぇデカっ。こんな美少年がクラスにいたとは……これとか似合うんじゃない?」

 あっという間に女子に囲まれた俺は、流されるまま渡された衣装を着た。
 吸血鬼コンセプトなのに、何故メイド服が存在するのだろう。

 女装なんて本当は死ぬほど嫌だったが、見事に陰キャっぷりを発揮して、圧の強い女子たちに逆らえなかったのだ。

「矢野?」
「高嶺……」

 あろうことか、着替えて早々、一番見られたくなかった人物に見られてしまう。

(少しでも高嶺に釣り合うよう整えてきたけど、まさか女装させられて、それを見られることになるなんて)

 恥ずかしくて今すぐ教室を飛び出してしまいたいが、女子たちは俺のことなど全く気にせず、きゃっきゃと楽しそうに会話している。
 
「ちょっと二人並んで! うわーっ、いい感じ!」

 突然、撮影会が始まった。
 何が楽しいのか、委員長は俺と高嶺を被写体にして連写している。

 オタクっぽい女子から、これは萌えるという声が聞こえてきたが、聞かなかったことにしておこう。