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 美しく咲き乱れていた白の紫陽花が、茎ごとすっぱり切れて落ちた、そのひと株を最初に見つけたのは新しい庭師だった。君を初めて見つけたあの日、僕の隣を歩いていた庭師の息子だ。
 紫陽花にはまず見られぬ最期だろう。地面に茎ごと落ちた後も朽ちすらしないというその株を庭師に差し出され、僕は堪らず固く目を閉じた。

 この身に入り込んだ毒は、本来の紫陽花のそれより遥かに強いものなのだと、あの日倒れ伏した瞬間から悟っていた。

 君だけの毒。
 僕を苦しめるための。僕を、殺めるための。

 朽ちることを知らぬ君に、老いていく僕を見つめられることに耐えきれなくなった。だからあの日、とうとう君を問い詰めた。
 この現実は、僕の独りよがりが生んだ結末に他ならない。

 庭師が退室した後、君の毒によって身動きがままならなくなった身体を引きずり、車椅子から下りる。
 茎の切り口は躊躇なく切断されている。それを掻き抱きながら、小刀を己の首に押し当てた君の泣き顔を思い出し、僕は声を震わせて涙を落とした。

 僕さえ君に戀をしなかったなら、きっと、君は紫陽花らしく生を終えられた。それなのに。
 僕はひどい人間だ。
 君に授かった毒をこの身に宿しながら、君を花らしからぬ末路へ導き陥れたことに、深い充足を覚えている始末なのだから。

 ……君の毒は、僕の身体を、心を、今度こそ殺しきってくれるだろうか。

 口を開ける。大きく、大きく、余すところなく君を受け入れきれるように。
 そうして、いつか君が『どの宝石よりもきらびやかで無垢』と称していた純白の花びらを、僕はゆっくりと口に含んだ。



〈了〉