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 萎れぬ紫陽花がある、と庭師に聞かされたのはいつのことだったか。
 美しく咲き誇るその白い紫陽花は、花の季節が終わりに近づいても、過ぎ去っても、雪の降り積もる冬に至っても、変わらず艶やかに咲き続けているのだと。

 初めは奇妙な話だと思っただけだ。だが、同じ報告は庭師が変わって以降も続いた。それも毎年。
 訝しく思っているうち、ある仮説に辿り着いた僕は、結局それを確認するには至れずじまいで――そうして、紫陽花の前に倒れ伏していた娘に手を差し伸べてから二十年あまりが過ぎた頃。

 ついに、僕は君に問うてしまった。

 美しい女。同じ人間のそれとは思いがたい、白く艶やかな髪。どれほどの月日が過ぎようとも皺ひとつ刻まれぬ、滑らかな肌。
 突きつけた刃を、つまらないものでも見る目で眺める君の双眸を、直視などとてもしていられなかった。

 ……毒の味を覚えるよりも先に倒れたのだと思う。
 女に静かに見下ろされ、僕は、己の二十余年がいかにこの女ばかりで埋め尽くされていたのかを思い知っていた。
 さらに毒を注がれ殺されるのだろうと諦念が過ぎったと同時、それで構わぬとも思った。親族の糾弾の一切を無視してまで貫いた戀だ。その末路が相手に取り殺されるものであるならば、むしろこれ以上の僥倖があろうはずもない……だが。

 血飛沫は、果たして上がったのか。僕は見ていない。
 君は自ら首を掻き切った後、そのまま消えるようにしていなくなった。

 僕が、生涯で唯一愛した、ひと。