(はぁ~…)
シャワーを浴びながらため息をつく。

「なんか百目鬼さんの雰囲気にのまれてしまった……それに…」 
唇にソッと触れる

「…キス初めてされちゃったな」

学生の頃からロマンチックな場所で最愛の人と幸せなキスを夢見ていた。
こんな気軽にファーストキスを奪われようとは思わなかったのだ。
澪は頭をかかえながらワシャワシャした。




澪がシャワーを浴びている間、和彦はルームサービスで頼んでおいたワインを飲んでいた。

「…まぁ写真より可愛かったな。それにしてもキス程度で従順になるとはね」
イモ女をこれから抱くんだから酒を飲まないとやってられない。
都会の女に飽きていた和彦には口直しが必要だと抱かない選択肢はなかった。

少し本気にさせて口直し用のキープとしておくか…などと考えていた。

「………」
「………………ん?」

「遅いな…澪ちゃ〜ん!」
浴室に向かって呼んでみるが返事がない。

さすがに何かあったのかと慌てて浴室へ行き、ガラッとドアを開ける

「えっ!?きゃああ!」
悲鳴をあげ体を隠す澪

「澪ちゃん何してるの?」
「えっシャワー浴びろって言ったじゃないですか」
「確かに言ったけど体を軽く洗う程度でしょ、普通」
「えっ?えっ?」
困惑する澪

「えっともしかして処女?」
顔がみるみる赤くなる

和彦は着ていたバスローブを脱衣所に投げ捨てた。

澪を抱きしめながら
「処女なんて何年ぶりかな…」
澪に聞こえないようにつぶやく和彦

「…っくしゃん」
和彦がクシャミをする
「クシャミ可愛い…あ、じゃなくて大丈夫ですか?早く何か着てください風邪引きますから」
「いや、いいよ。オレは大人なんだから1度のクシャミくらいで風邪なんか引くわけないって」
「でも…」

和彦は心配そうな澪を見る
一瞬、切なそうな顔をするが笑顔を作り
「じゃあ、一緒に湯船に入ろう。澪ちゃんがオレを待たせたせいなんだから責任取ってよ」
澪にキスをして言う事聞かせようとする

澪は責任を感じたのか従うことに。
ホテルの従業員か和彦が事前に湯が沸いており、丁度いい湯加減になっていた。

一緒に入ったのはいいが…いいのか?澪は和彦に後ろから抱きしめられるような体制で腰に腕を回され身動きがとれない。

「温かいくて気持ちいいなぁ〜あ・温かくて気持ちいいのは澪ちゃんの事ね」

「…はぁ。あの百目鬼さん、もう温まったなら私出ていいですか?」
「だーめ。百目鬼さんじゃなくて和彦ね!あと敬語もなし!オッケー?」

「はい…あ、うん。わかった和彦…さん」
「男の名前を呼ぶのも初めて?」
「いえ、男の幼馴染がいたので…ひゃあっ」
またキスされる

「なななっ!?」
「初々しいのが可愛いかったからつい。超絶イケメンにキスされて喜ばない女いないよ?」

「…私は嬉しくない。……ファーストキスはロマンチックな場所でって夢見てたのに壊されたんだから」
「キスなんてそんなもんだよ?恋愛もね」

「うう〜」
「不服な顔しないの。澪ちゃん何歳?オレは24歳」
「23歳です。……和彦さんは写真と印象が違いすぎだよね」
「え、いきなり愚痴?どう違うの」
「ハーフっぽくて綺麗で優しそうだと思ったのに軽すぎです」
「オレはハーフだよ。毛は一応、地毛ね。綺麗で優しいでしょ、オレ」


「…んっ………っ…」
和彦にキスされる

「……」
「………?」
和彦の様子がおかしい。
キスされながらも体の力が抜けていくようだった。

「か、和彦さん大丈夫ですか?フロントに連絡しますね!救急車ァ!」
「…ごめん。のぼせた…だけ…だか…ら…」
焦っている澪に心配させまいと笑いながら応える

「肩貸しますからベッドまで頑張れます?んぐぐ!」
澪は力の限り和彦を引っ張る



なんとかベッドまで運んでタオルで体を拭き、脱ぎすてられたバスローブを着せる

「お水飲めますか?」
「ん…澪ちゃんから口移ししてくれないと飲めないな〜」
「これだけ元気なら飲めますね」
水のペットボトルを手に持たせる
和彦は「水より冷たい〜」と文句をいいつつ、水を飲む

「ご気分はどうですか?」
「う〜ん…」
伸ばした腕でベッドに引き寄せ、抱きしめる。
「うん、気分最高だね☆」

澪は内心ドキドキだった。
(和彦さん、元気そうでよかった…でもこの体勢ってあの…このまま…よし!キスされてもスイング!スイングして交わそう!私は軽くない!体だけは守るんだから!)
そんな事を考えていた

「澪ちゃん…」
強く抱きしめられ、あと数cmの距離に和彦の顔がある。
「ごめん…少しだけ…このままで…」
和彦は目を瞑り寝てしまった

澪はドキドキしながら体は守れてホッとしつつ、和彦の顔を眺めた。


(本当に綺麗な顔…喋らなければ王子様フェイスなのに)

澪は思い出す、吉田さんの言葉を。

『ちょっとヤンチャな子でね〜祖父も父親も早く結婚させて落ちつかせたいんだって』


和彦に何度もキスされたりお風呂に入った事も思い出す

(あっ…ヤンチャってそうゆう……これからどうしようぅ〜)

そんな事を思いながら澪もウトウトしてしまう


「…ちゃん…澪…澪ちゃん!」
ハッと目を開ける。どうやら寝てしまったようだ

「あ、ごめんなさい寝てて…」
「うんうん、オレの温もりがそんなに良かったんだね〜」
またキスされそうになる
「スイング!」
スイングという名の軽いビンタだ。
「痛って〜」

「私は軽くありませんし違います!」
「わかったから着替えなよ」
澪はタオル1枚のままだった。

脱衣所に置いたままのスーツに着替えて部屋に戻るとスーツ姿の和彦がいた。

(わあぁ…)
思わず声が漏れそうになる。
スーツマジックというやつだろうか、先程の軽い感じではなく仕事出来るエリートマンだった。
澪は見惚れてしまった


「じゃあ帰ろっか?」
「は、はい」
「敬語はなしって言ったでしょ?キスするよ?」
「駄目で…駄目だよ」


ホテルを出る
「澪ちゃん、家まで送るよ」
「大丈夫、一人で帰れるから」

ため息をつきながら澪にキスをする和彦
「ね?」
「また…っつ!ぬぅ〜…お願いし…するね」
「うん、よろしい」

駐車場に着くと高級車があった。

「車で来たのにお酒飲んだの?…」
「気づいてたんだ…もう酔いも覚めたから大丈夫だよ。澪ちゃんの介抱のおかげでね」



車で送ってもらう中
「澪ちゃんの好きな食べ物は?」
「澪ちゃんの好きな色は?」
「澪ちゃんの好きなタイプは?」など質問攻めに合う。
答える澪だが、逆に澪が質問すると答えを濁されてしまった。

「あ、ここで大丈夫だから、送ってくれてありがとう」
「うん」
車を停め、降りる。

「澪ちゃん、また会ってくれる?まだお見合い(違う意味で)してないしさ」
「…」
「また不服そうな顔しないの。今度、連絡するよ」

そう言って和彦は帰って行った。

「連絡って…」
カサッ
ポケットに紙が入っていた。
中には連絡先があった

(いつの間に…)