そして迎えた夏祭り当日。少ない私服の中から、特段オシャレな服を選び、ワックスで無造作に伸びた髪も整え、神楽くんと一緒に夏祭りへと出かけました。

初めて行く夏祭り。思いのほか賑わっていて、人込みではぐれないように、僕は神楽くんの服の袖をぎゅっと握りしめていたのですが、いつしか握る対象が神楽くんの手に変わっていたのです。そして、その手を離したくないと思った僕は、恋人繋へと結び直したのです。緊張から汗ばんでいく掌。熱気のせいで噴出してくる汗。色んな初めてが詰まっていたのです。

 夜店では定番の食べ物を購入し、2人で分け合ったり、僕が使っていた箸を神楽くんが使って食べたり・・・と、とにかく祭りという、ちょっとした高揚感に包まれた僕らは、一夜限りという特別な雰囲気を楽しみました。しかし、ここで僕は重大なミスを犯すのです。そう、神楽くんにゲイであることを伝えようと決めていた僕ですが、伝える気持ちよりも、楽しいといった気持ちが上回り、伝えること自体を忘れてしまっていたのです。

伝え忘れていた僕は、こんなことを思いました。お金も時間も有限だけど、僕と神楽くんの間で結ばれた絆、恋心は無限に続くのだ、と。

そして、祭りからの帰り道では、僕と神楽くんのそれぞれの将来について熱く語りました。

「いつか法律が変わったら、男を相手に選んで、結婚したい」
「いいですね」
「俺と相手との間で、性別関係なく、カッコよくて可愛い子供を育てたい」
「分かります。カッコいいとも可愛いとも言われる子供欲しいですね」
「子供の名前は、男女問わず使えるものにするべきだよな」
「子供自身が性別を決められる世界が来るでしょうからね」
「んで、俺と相手、そして産まれた子供と、楽しく幸せな家庭を築きたい」
「平和に暮らすことが1番ですよね」

僕は夢物語を話しているのだと思っていたのですが、実際、神楽くんは本気ごととして発言していたのです。ですが、僕は、神楽くんの発言を軽く受け流していました。その相手というのが、僕であることを知らないで。

 こんな感じで神楽くんと楽しく話しながら歩き続けていたのですが、寮まで残り2キロぐらいのところで、突然、天気予報外れの雨が降り出したのです。しかも、大粒の雨。しかし、僕ら2人とも傘を持っていなかったため、ずぶ濡れになりながら寮まで走って帰宅しました。そして、濡れている姿を見て、僕らは大声で笑い合いました。ずぶ濡れになっている瞬間でさえも、男子高校生にしか味わえない青春だと感じたのです。