そして半年後、僕はこの高校への入学が決まり、それに先立って、男子寮ワンダーランドに入寮するため、1人大きな荷物を抱えて学校へと足を運びました。寮では髪型も髪色もバラバラな6人の先輩がいたのですが、その中でも、白に近い金髪ヘアに、両耳にはたくさんのピアスを付けているという、各段に強面な男性と頻りに目が合っていました。最初、なぜこんなにこの人と僕は目が合うんだろう、と不思議でしかたありませんでした。

ただ、その数分後には理由が分かりました。

先輩による案内が終わり、1人部屋に戻ってきたのですが、急に寂しくなって、少しの不安に襲われていると、ノックされたドアが開いた、その背後から、いきなり僕は何者かに抱き付かれて、耳元でこう囁かれたのです。「那月、俺との約束守ってくれたんだな」と。何のことか分からずに戸惑っていると、ゆっくりと近づいて来た相手の顔に見覚えがあり、そしてハッとしたのです。

「もっ、もしかして、神楽くんですか?」

僕がそう言うと、相手は5歳児のように可愛らしくニヤついたのです。長袖Tシャツから顔を覗かせる右手首には、あの時と同じバツ印の傷痕があり、そこにいるのが神楽くんであると確証を得たのです。

「久しぶり、那月! 会いたかった!」

再びの抱擁。神楽くんの心臓の鼓動が、僕の背中越しに伝わって来て、耳が熱を持っていくのが分かりました。

「久しぶりです」「ちゃんと来てくれたんだな」「すいません、約束守っちゃいました」「ったく、へへっ、可愛い奴だな」

なんて会話を交わし、解かれた手で、僕の髪の毛をわしゃわしゃと触ってきた神楽くん。胸がキュンとして、高鳴って、口元は緩むばかりでした。

僕は神楽くんとの半年ぶりの再会を喜んでいると、神楽くんはフフッと笑って、 「俺は那月と会った瞬間から、残り1年間の高校生活は、那月とだけ満喫するって決めてたから」と言って来たのです。素朴な疑問が思い浮かび、「どうしてですか?」と訊くと、満面の笑みで、「那月のことが好きだから」と、唐突なる告白みたいな発言をしてきたのです。僕はこの瞬間に、なんてカッコいい人なんだ、同性として好きな人だと思ったのです。ただやはり、このときもまだ知りませんでした。僕がゲイであること、そして、神楽くんが僕に恋をしていることを。